2009年2月28日土曜日

政治家の「品質」

中川元財務大臣の辞任事件後、ブログ検索やYoutube検索をすると、いかに世界中が中川氏にいかにこの事件が注目されていたかがよく分かります。とくにYoutubeのヒット件数の急上昇ぶりは、いかにみなが面白おかしくあのショッキングな動画をみていたことを示唆しているといえます。こうした事件や、昨今の日本の政治の迷走ぶりをみてみると、日本の政治家の「質」は高いといえるのだろうかという疑問が時々頭をよぎります。

政治家「質」が高くないのとすれば、それはなぜだろうか、と思うわけです。そのひとつが政治家になるまでのキャリアパス、そのキャリアから得られた世界経済への理解、ビジネスへの理解、国際問題に対する洞察の深さの違いが、「質」の違いを産んでいるのではないかと、私の隣に座っている台湾人と話しながら、ふと思います。

LBSの1年目は、学期ごとに固定した席で授業を受けるのですが、今学期私の隣にすわっている台湾人の父親は、民進党の有力な政治家だそうで、彼自体はまだ将来政治家になるかどうかは分からないとは、言っていますが、まあ、将来政治家になるのでしょう。

昨年に結婚したこのクラスメートは、昨年の年末に一度台湾に戻り、超盛大な結婚式を計3回!もやっていて、なんでそんなにやるの?と聞くと、そのほとんどの招待客は、父親の知り合い・友人で、1,000人以上呼ばなくちゃいけないから、とのこと。なるほど、着々と地盤の引き継ぎ作業が進行していることがよく分かります。

台湾人クラスメイトは、高校の頃からアメリカに留学し、シカゴ大学で経済を学んだ後、金融機関でトレーダーをしたり、台湾のプライベートエクイティで働いたり、またLBSにくる直前は、父親の選挙事務所でも働いていて、きちんと政治への道へのとトレーニングもしている。そして、今はヨーロッパに地を移して、勉強をし、卒業後は、ヨーロッパで、コンサルティングなどビジネスよりのことをしたいという。もちろん、英語もぺらぺらで、こないだ二人でチームを組んで課題をこなしたときは、こちら主に分析担当で彼がほとんどのライティングをやってくれた。

中川氏のキャリアを全く批判するつもりは毛頭ないのだけれど、彼の場合は、東大法学部卒、興銀に少し勤めたのちに、政界入りを果たしている。これはこれで、素晴らしい王道だと思うのですが、今のような波瀾万丈な世の中、世界経済や国際問題に世界中の国がリンクしてしまっている状況において、中川氏のような王道パターンか、台湾クラスメイトのようなキャリアパスのどちらが、より適切な政策形成ができるんだろうか、と考えてしまう今日この頃です。

2009年2月25日水曜日

Mr Drunk Minister 中川昭一にみる「組織行動論」

椅子から転げ落ちるかと思ったほど「驚愕」したのが、Mr drunk Ministerこと中川昭一氏。



小泉純一郎氏の最近のコメントではないが、「笑っちゃうよ」という感じでもあり、ここ海外にいると、もう恥ずかしいから「勘弁してよ」です。

それにしても、最近の政治家の議論のレベルの低さには、ほとほとうんざりさせられます。政治のニュースといえば、郵政分社化がよかったのかどうか、はたまた、かんぽの宿の譲渡先がどうのとか、直近の深刻の経済状況の対処からすれば、全くといいほど関係ないポリティクスに時間を使っていて、あきれるばかりと思っているのは私だけではないと思います。

そして、麻生首相がオバマ大統領と会談し、オバマ大統領に「内需拡大よろしく!」と頼まれれば、ポンと、30兆円のバラマキ政策が出てくる。そして、みんなその利権にたかってくるという始末で、本当に経済を活性化させる気があるのかどうか。

さて、話しは戻って、私がなぜThe Drunk Ministerに驚愕したのは、そのYoutubeでの衝撃的な映像もさることながら、なぜ明らかに泥酔しきった中川財務大臣がだれも会見を中止したり、代理人をたてることもなく、実施されてしまったのか、ということです。

想像してみてください。たとえば、隣に座っていた白川日銀総裁は、記者会見の前に、絶対、「この男、ちゃんとしゃべれるのか?」と思ったことでしょう。目が朦朧としていて、ろれつが回らない、そして、酒臭い。側近もそうした中川氏をもろに間近で見ているのにもかかわらず、誰も止めることができない。

少しスマートであれば、その酔っぱらい大臣の映像が全世界に放映されて、そのイメージダウンのインパクトの重さを容易に想像できるだろうに、それができなかった。

そのひとつの答えが、2003年2月1日のスペースシャトルコロンビア号の空中分解事故に見ることができるように思います。

チャレンジャーに続く、コロンビアの事故は、米国民にショックを与えた事故。事故までの経緯を組織行動学な見地から、分析しているのが、”The Wisdom of Crowds – Why the many are smarter than the few”の第九章。Organisational Behaviorのサイドリーディングです。ちなみに、日本では、なぜか、『「みんなの意見」は案外正しい』というオチャラけた題名になってしまっていますが、詳細なファクトに基づいたけっこうシリアスな本。

この章で語られているのは、少人数チームによる意志決定の危険性。ただ単に多くの意見を集めた方がいいよね、という短絡的な議論ではなく、少数人数がゆえの組織バイアスの働き方に言及しています。

コロンビア号の事故は、地球を脱出する際に、小さな破片がシャトルを傷つけていて、大気圏に再突入する際に、その傷口から熱が入り、最終的には爆発してしまうというもの。

地上部隊は、その破片による傷のリスクを詳細にシミュレーションしているものの、そのトピックをシャトルに乗っているManagement Mission Team(MMT)と交信する際、極めて奇異なやり取りをすることになってしまったのです。

地上部隊:もちろん、深刻なダメージがある可能性はあるが、温度分析によると、破片が貫通しているほどではない。もちろん、破片の大きさや、それがどこにぶつかったかなど不確実な要素があり、なんともいえないののだが

MITのリーダー:貫通していないということは、ひどいダメージはないということだね。

このやりとりがきっかけで、その後は、”この破片は深刻なダメージをもたらしていない”というムードのもと、最後まで会話が進む。

著者が指摘するのは、明らかにさまざまな前提の上でのはじめの地上部隊からの発言なのだが、MITリーダーが、「大丈夫なんだね」という言葉を発した瞬間、だれもそれに疑いの余地を挟むことはしなかったというもの。

これが、著者の言う、少人数グループの意志決定の弊害というわけです。少人数グループの議論の特徴がいくつか、述べられています。


-少人数グループは、意見の相違より一致を大事にする
-初期の影響力のあるグループメンバーの発言がきわめてグループの意志決定に影響を与える
-そうした意志決定後は、いくら新しい情報が入ってきたとしても、その結論をサポートする情報にしか目がいかなくなる

ここでの問題の構造が、今回の酔っぱらい会見をだれも制することなく、世界中に露呈した問題の構造と似ているのではないかと思うわけです。

おそらく、中川氏とその側近と何人かのグループで、移動しているわけですが、そこに少人数グループによる誤った意志決定メカニズムが働いたというのが一説となり得るのではないでしょうか。

2009年2月24日火曜日

ビジネススクールにもスタッフ人員削減の余波;スタンフォードGSB


長引く気配のある不景気。

”平成20年10~12月期の国内総生産(GDP)は年率換算で12・7%減少し、戦後2番目の落ち込みとなった”(産経ニュース)

この数字の大きさを疑わずには居られない人も多かったのではないでしょうか。10%以上も瞬時におっこってしまうとは、ただ事ではありません。まさに経済が凍り付いているとでもいいましょうか。

日本だけでなく、もちろん世界経済も大変なのも、みなさん周知の通り。

一方で、こうした不景気に強いと言われているのが、ビジネススクールですがそうともいえない現実が突きつけられているようです。なんと、かのStanford Graduate School of Businessのスタッフの12%にあたる50人ほどの人員削減が行われた模様。

スタンフォードのDean曰く、”This was the most painful decision I have had to make in my nearly 10 years as dean”

たしかに、ビジネススクールは、不景気と逆相関するかのように、入学希望者数は増える傾向にあります。LBSも願書出願者数が今年は顕著に伸びているようです。しかし、だからといって、定員を急に増やせるわけでもありません。設備の問題や、教授、クラスなどの受け入れ体制をすぐには整えられないでしょう。

だから、いくら願書出願者数が伸びたからといって、それが売上げ向上にはほとんどつながらない。

一方で、ビジネススクールにとって、最も大事な収入のひとつが寄付金ですが、これが景気の影響をもろに受けるという訳なのです。企業からの寄付金、卒業生からの寄付金でもって、多くの収入をまかなっている学校にとってこれは痛い!スタンフォードもこの寄付金の減少(とその運用成績の低下)が顕著で、人員削減に踏み切ったとメディアでは報道されています。

これは大変なことで、スタンフォードがこういう状況ですから、他はどうなってしまうのか。

London Business Schoolはどうか-いまのところ、そうした人員整理のニュースは聞こえてきません。この間の学生会のような場では、学長は、こう言っていました

”うちの学校はそもそも寄付金への依存率が低かったから、幸いにもその影響を、他のビジネススクールに比べると影響を受けていない”と。


実際、LBSは歴史が浅いこともあり、寄付金の額がそれほど大きくなく、往年fundingに苦労していたのですが、こうした危機のときには、"いまのところは"、妙な形で吉と出た、という感じでしょうか。

ビジネススクールも、企業と同じく不況に苦しんでいる実体が明らかになってきました。

マッキンゼーの新しいCEO;新興国シフト

FTによると、戦略コンサルティングファームのマッキンゼーのトップが前任のリタイアにともない、Barton氏に交代するようです。彼は、カナダ生まれで、韓国ソウルオフィスや、中国上海オフィスのトップを歴任してきたアジア通。46歳。若い!

最近の戦略コンサルティングファームのトップの特徴として、アメリカ生まれ、育ちの純粋アメリカ人はまず、トップになりません。

もともとは、マッキンゼー、そしてその他のコンサルティングファーム-たとえば、BCG、ブーズ・アンド・カンパニー、ベインなど-も、もともとは、米国発のファームだったのにも関わらずです。

FTにも、アジアのエキスパートをトップにマッキンゼーが選抜したのも、この地域のファームにとっての重要性を示唆していると書かれています。

私の所属しているブーズ・アンド・カンパニーも、昨年のブーズ・アレンからの分社化にともない、CEOはインド人、会長は、フレンチとレバノンの二重国籍でかつ、中東歴の長い人物で、これまた、多極化した世界を意識した布陣になっているように思います。あわせて、本社という概念もなくなりました。

多くのコンサルティングファームのトップは、過去は生粋のアメリカ人がリードし、その後はヨーロッパ人にバトンタッチされ、最近は、新興国の出身または経験者がリードする、というのがパターンになっています。そうでもしないと、これ程までに多様化してしまったコンサルタントたちをマネジメントできないという表れでもあると思います。

2009年2月23日月曜日

MBAの授業はENTERTAINMENT



LBSのようなフルタイムMBAの授業設計は、けっこう大変だろうなと時々思います。その最大の理由は、学生が授業に慣れてきてしまうからです。

当初は、仕事から抜け出して、毎日授業を受けるのが新鮮であっても、徐々にそうした生活にも慣れてきてしまう。ビジネスに生きてくる「学び」を提供するためには、それ相応の学生への刺激がないとダメですが、授業の毎日に慣れてくると、そうした刺激にも慣れてきてしまう。

そして、少しでも授業や講師がつまらないと、”ああ、あのクラスはBoringだよね”とレッテルをはられてしまい、それが続くと、もうその講師は授業を教えられなくなってしまう。授業に変化球をつけ、生徒を飽きさせず、学びを2年間提供し続けるのは、それほどたやすい仕事ではないと感じるのです。

そういうわけで、授業設計には、学生が飽きないようにする、さまざまな「仕掛け」がほどこされています。ある意味で、一本の授業は、緩急がついたひとつの3時間エンターテイメントを楽しむような感じになっているのです。

そうした「仕掛け」のひとつは、「意志決定+種明かし」です。

これはビジネススクールのケース・ステディ系授業の王道でしょう。何らかの状況のもとに、あなたならどうするかという意志決定を迫る。最後には、その意志決定にまつわる種明かしがされ、「ああ、そうか、なるほどね」とか「うーむ」という強いインパクトをもってして、授業が終わるというパターンです。

たとえば、先日は、Organisational Behaviourの授業で、あるレーシングチームを扱いました。あなたは、あと45分後に今日のカー・レースに出場するかどうかの意志決定を迫られているのです。あなたの置かれている立場や、レースに出場しないことの弊害や、直近の事故率のデータが添えられている。刻々と時間が迫る中、さあ、出場するのか、しないのか?

そのタネ明かしは、なかなか秀逸で、じつは、このケースは、スペースシャトル「チャレンジャー」が発射オーライの意志決定をしたときの状況そっくりにケースが書かれているのです。事故率のデータなども全く同じ。ただ違うのは、カーレースに出場するかしないか、とシャトルを発射させるかしないか。組織的なプレッシャーの働き方も同じように書かれています。

授業の最後では、アメリカの期待を一身に背負ったチャレンジャーが、発射したあとすぐに、木っ端みじんに爆発するシーンをクラスでみて、かなりしんみりとした雰囲気の中、授業の幕が下ろされたのでした。

その他にも、生徒を飽きさせない「仕掛け」はいくつかあり、追々ここでも紹介していきたいと思います。

2009年2月21日土曜日

テクノロジー・サミット

London Business SchoolのTechnology Summitに午前中だけ参加しました。

こうしたSummitは、学校やクラブによって多く開催されていて、自分の興味に応じて参加できるのがいいところです。クラスメイトの中には、興味がなくても、その分野のホットトピックを外観できるということで、積極的に参加している人もいます。

ここ何ヶ月の間に、私がパッと思いつくので、London Media Summit, Energy Summit, PE Conference そしてこのTechnology Summitです。Healthcare関連のカンファレンスも近いうちに開催されるようです。

大体どのカンファレンスのフォーマットも同じようなもので、いくつかのキーノートスピーチととともに、いくつかの旬な話題を中心としたパネルディスカッションで構成されています。少々の参加費をとられますが、なかなか知的な一日を過ごすことができるイベントです。以下、Technology Summitのアジェンダです。

Agenda
08:30 - 09:00
Registration & Coffee


09:00 - 09:10
Welcome Note
Polina Moskovaya, Co-President
London Business School
Technology Club


09:10 - 09:50
Morning Keynote
Nathan Marston, McKinsey


09:50 - 10:50
Panel 1: Internet Business Models
Hussein Kanji, Accel Partners
Rob Swerling, Google
Ryan Regan, Last.fm
Giles Andrews, Zopa


10:50 - 11:10
Coffee break


11:10 - 12:10
Panel 2: Mobile - Next Steps in Monetization
Moez Daya, Celtel
Gerard Grech, Mobile Entertainment Forum
Jana Eisenstein, Microsoft Advertising
Dave Hagedorn, Vodafone


12:10 - 12:50
Afternoon Keynote
Simone Brunozzi, Amazon


12:50 - 14:20
Lunch


14:20 - 15:20
Panel 3: Markets in Post-Credit Crunch Era
John Plumpton, Barclays Capital
Barry Marshal, BidRoute
James Sinclair, MarketFactory
Kunal Nandwani, Nomura
Paul Buckler, Rabobank


15:20 - 16:20
Panel 4: Home Entertainment
Joseph Dahan, BT
Alberto Spinelli, Intel
Jeff Pabst, Microsoft
Stuart Collingwood, Sling Media


16:20 - 17:00
Closing Keynote
Keith Mitchell, Cisco


17:00 - 17:10
Closing Note
Eytan Kabilou, Co-Chair
London Technology Summit


17:10 onwards
Drinks & Reception

2009年2月20日金曜日

Argos; 日本にない低価格百貨店

Argosは、低価格帯を狙ったデパート

家具、日用品、電化製品、おもちゃ、何でもござれ
どれもこれも安さが売り!

なぜ安いのか?

店舗に商品陳列棚がない!
置いてあるのは分厚いカタログだけ
そして、商品は安かろう悪かろう!
どうやって商品を買うのか?

1.まず、カタログをめくって買う商品を決める



2.商品番号を紙に記入



3.レジでお金を払い、整理券をもらう



4.違うカウンターで商品を受け取る


もちろん、オンライン・ショッピングもOK

カタログは持って帰れて
ロンドン市民的には一家に一冊という感じ

店舗はロンドンのいたるところに点在
よく考えてみると、小売りの形態ってほとんど進化してない

小売りの形態ってもっともっとイノベーションがあってもいい
Posted by Picasa

2009年2月18日水曜日

London Business School “クロスロード・アート・エグジビション”


クラスメイトとともに、ビジネススクールで世界初!アートギャラリー展を企画しています。London Business Schoolのコミュニティ全体、すなわち、もろもろのプログラムに参加している生徒はもちろんのこと、卒業生、教授陣、スタッフ、パートナーから、プロ・アマを問わず、写真、絵画、彫刻などなどを募り、学校内に1週間展示するというもので、テーマはずばり、”あなたにとってLondon Business Schoolは何か”。

ビジネススクールは、例えていうならば、巨大なスクランブル交差点~Crossroads~。そんな意味合いもあり、タイトルは、クロスロード・アート・エグジビションに決定。世界中から学生、教授、ビジネスパーソン、そして企業がLondon Business Schoolという交差点で交わる。

そこでは、様々なカンファレンス、リクルーティングイベント、そしてもちろんFun Eventsも目白押し。このような、環境の中で学生個々人が、自分に興味のあるところに参加し、ネットワークをつくり、次のキャリア、もしくは長期的なキャリアや人生の礎をつくっています。

このイベントを通して、成し遂げたいと思っていること。みんながもっているLBS体験を一気に表出化させること。普段は隠れてみえないがセミプロやプロ級のアーティストがけっこうLBS Communityにいるので、そうした人の才能を顕在化させること。ビジネスにおけるアートの重要性を暗にほのめかすこと。以上を通じて、LBSの体験にビジネス以外の新たな側面をもたせること。

今年の5月を予定していますが、ちょうど同じ時期にArt Investment Conferenceがあるので、これとの連動企画にする予定です。画期的なイベントになれればと。

2009年2月17日火曜日

MBAにくるキッカケ



“30歳前後までの体験で、その人の価値観は決まる”

これは大学、大学院のころの恩師、飯塚悦功先生のお言葉。ある飲み会か何かの席でぽろっともらしていた言葉ですが、今でもある意味で真実だと思います。

多くの偉人と言われる人でも、仮に40歳以降で、花開いていたとしても、その人のコアの部分というのは、30代前後までの原体験によって、形成されているというのです。たしかに松下幸之助にしろ、みな20代のときにすべての志はそのころに完成しているものです。

私もその30代前後の年齢になり、今一度自らの世界観を広げるラストチャンス(かもしれない?)ことを、突然に直観し、けっこう唐突に留学することを決めました。

私は理系の大学院を修了後、経営コンサルティングファームに6年半勤務した後、London Business Schoolにやってきました。職場にはMBA取得者多かったせいか、MBAには関心はありましたが、長らく本気で取得しようとは思っていなかったのです。

仕事を進める上で、MBAを持っているかどうかは、あまり関係ないことを実体験で知っていたからでしょう。逆説的ではありますが、MBA取得者に囲まれていたからこそ、「まあMBAはイラナイでしょ」思いながら日々を過ごしていました。

それまでの私は、経営コンサルティングを行う上でMBAが役に立つかどうかという極めて狭い尺度でしか、MBAを評価していなかったのだと思います。しかし、MBAのより広い価値があるのではないかと思ったのです。MBAには、単純なスキルの獲得に加えて、人生を豊かにするエッセンスがあると思ったのです。

すなわち、世界のトップクラスの仲間との体験、普通では出会えない人々とのネットワーク、家族と過ごす海外生活を通して、自らの世界観を今一度広げて、そして今後の長い人生をより豊かにするための礎を築けるはず、と直観したのです。

また、純粋にアカデミアによるビジネスリーダーの育成方法にも興味がありました。アカデミックの世界、雰囲気も個人的には好きです。工学の大学院修士をとったのちは、コンサルティングの世界に行くか、博士課程に進むか迷った時期がありましたから。

まあ、そんなこんなで、今こうして、ここロンドンの地で、勉強の日々を過ごしているわけです。

2009年2月15日日曜日

学校はコンテンツビジネス;LBSの授業からひとこま



このクラスは、MBAが始まってすぐのリーダーシップ入門という位置づけの授業。この授業がクラス設計上、面白いのは外部リソースもフルに使っていることです。理論は教授が、会社経営のシミュレーションゲームはそれを専門とするトレーニングカンパニーが、360度アセスメントや性格診断はそれ専門の業者が担当し、それらをひとつのパッケージとしてGlobal Leadership Assessment Programmeとして仕立て上げています。そして、が故に複数のクラスを同時に走らせることができるメリットも。

最近は、授業でもゲストスピーカーが増えてきましたが、ロンドンビジネススクールという、学校プラットフォームを活用して、さまざまなコンテンツ(外部リソース、内部リソース)をのっけていき、それを生徒であるわれわれが消費していく様は、まるでコンテンツビジネスそのもの。学校というのは、ある意味でコンテンツビジネスの中でも、コンテンツクリエーションよりむしろコンテンツアグリゲーション(必要なコンテンツを加工編集して届ける)ビジネスに近いといえます。

2009年2月14日土曜日

あるチェコ人中年男性の吐露

我らのガイドをつとめてくれたチェコ人ガイド。

44歳、ガイド歴14年。30歳、ソ連邦の崩壊のときに職を失って、ガイドを始めたのだろう。30歳まで共産主義の中で育ち、そこから自由主義経済を10年以上経験したひとりのチェコ中年男性の本音を垣間見る。

オレはロシアは大嫌いだ。あの国はな、成り上がりと貧困層の二極化が激しいんだ。成り上がりは鼻にとまる。だいたい五つ星のホテルに行くと、成り上がりのロシア人に会うから、オレは絶対に五つ星には泊まらないんだ。三つ星だとロシア人に会わなくてすむから、いつも三つ星だ。

うちらはな、ウランをロシアに提供していたんだ、昔。でもロシアは、何の見返りもなく、やつらはそれをとっていったんだ。最近は、マフィアがロシアからチェコにきていて、プラハはマフィアが会う秘密の場所になってきている、知っているか?そうだ、日本人はアメリカに広島、長崎に爆弾を落とされたけど、何とも思わないのか、どうなんだそのあたりは?

ウクライナは、娼婦だらけ、エイズが蔓延だ。オレはガイドを14年もやっている、信用しろ。あそこは行くところじゃない、気を付けろ。みんな金目当てだ。馬鹿なアメリカ人がみんなだまされている。働きすぎて気づいたらまだ結婚してない中年アメリカ人が、だいたいはエイズにかかっている。教育もちゃんと受けているのになんで騙されるのかと不思議に思うよ。それで、一生を無駄にするんだ。もしウクライナに行くなら注意することだ。

でも、オレは、カネがあったら、アメリカに行きたい。アメリカは好きだ。アメリカは自由の国だ。このネクタイを見てくれよ。自由の女神の柄だ、ハハハ。オバマはいいヤツだ。オバマのことはどう思うんだ?まあ、オレは正直だ。そう、チェコ人はオープンで、何でも話すんだ。でもオレはヨーロピアンでもあるんだ。これはとてもいいことだ。


多くの歴史の渦に巻き込まれたチェコが故に、屈折した心理を持ち合わせているこのチェコ人。でも、確実に「脱ロ入欧」の意識が市民一般レベルまでに広がっているのをうかがい知ることができる。

2009年2月13日金曜日

LBSのPrivate Equity Conference

今日は、ロンドンビジネススクールのPrivate Equity Clubが主催するConference
http://conference.london-pec.org/2009/index.html
私は、PEが企業を買収したあとの、実際のターンアラウンドや成長に向けたお手伝いを何件か長期でコンサルティングでやっていたので、興味をもって参加。

テーマは、”A Time to Evolve”というもので、プライベイトエクイティの今と将来について、現場で活躍しているビジネスパーソンを呼んで、ディスカッションするというもの。三本のキーノートスピーチと、4つのパネルディスカッションで構成されています。キーノートプレゼンテンターは以下のとおり。

Anne Glover, Co-founder and Chief Executive, Amadeus Capital
Conor Kehoe, Director McKinsey & Company's London office
Dwight Poler, Managing Director, Bain Capital.
Many other prominent speakers from companies including 3i, Lone Star and Actis will be present during the event.

大きなメッセージとして伝わってきたのは、大きな潮流として、PEの利益の源泉は、いわゆる金融エンジニアリングから、買収企業の価値の創出に移ってきているということだと思う。

資本構成を変えたりといった金融的なテクニックで瞬時に利益を生みだせる機会は減ってきていて、逆に、本当の意味で、コストを削減をしたり、売上げを増やしていくようなことを着実にやっていかなければいけないというもの。

上のメッセージの方が、リスナーには「ウケ」が今のご時世、いいというのもあるでしょう。というのも、金融発の大不況ということで、世論は、金融で儲けるなんてけしからんという方向に過度にふれていますから。

いずれにしても、企業のビジネス的な価値を産み出すことが大事というのは、金融経済から実体経済への回帰という、これから5年から10年ほど続くであろうトレンドに即したものだと思います。

マッキンゼーとLBSが協同でPE業界を調査した研究成果も発表されたのですが、これがなかなか面白い。いくつかメッセージを紹介してみましょう。

PEファームによるリターン底上げ効果の約半分弱がビジネス改善によるもの
トップ四分の一のPEファームのリターンは、35.1%。業界的には3割を越えないとダメですから、こんなものでしょう。ただ面白いのは、トップ四分の一で、のリターン。業界全部でやると、インデックスより収益が落ちるので、そもそも分析の対象外にしている。PEというのは力があるところだけがPEファームなのです。

その35.1%の構成はどうなっているかというと、そもそも買収する前で16.6%のリターンがあり、ビジネス改善が8.9%、金融エンジニアリングが10.4%の底上げ効果が平均してあるという結果が出ています。ざっくりビジネス改善が9、金融エンジニアリングが10という感じです。ビジネス改善効果も、無視だけないね、というお話。とはいえ、レバレッジなどの金融パートで10も改善できるんだから、そうはいっても、まだまだこの領域も大事なのも分かります。

ビジネス改善効果が高いケースでは、PEのビジネス側面への関与度が高い
なにを当たり前な!と思うかもしれませんが、何となく分かる気がします。実力のあるPEだと、買収企業に効果的に入り込むことができる。逆も真だと思うのです。ある意味で部外者が入ってくるわけですから、それ相応のビジネスセンス、力量、度胸などがないと、そう簡単に企業に入り込んで、意志決定に影響を及ぼすのはなかなか難しい。実際PEの人間と、事業会社の人間は、インセンティブのかかり方も、キャラクターも全く違うので、協調して働くとなるには越えなければいけないハードルがあります。

ちなみに、ビジネス関与度が高いというのは、ここでのプレゼンによれば、PEファームサイドから、CEOへのコンタクトの頻度やemailのやりとりの頻度が多いとか、外部の支援を適切に使いながらビジネスを進められるかとか、経営陣を取り替えられるかどうかなどを指しています。

PEの非常勤取締役は、非常勤取締役の新しい形態になる
じつは、PE(トップ4/1)の買収企業は、他の公開企業より、リターンが高いのですが、その理由のひとつに、非常勤取締役の役割の違いがあるのではないか、というもの。通常の非常勤取締役の役目というは、リスク管理、コンプライアンス遵守、社長継承プランへの関与、戦略の確認といった、どちらかといって、チェック役、番人役的な役割。

一方で、PEによる非常勤取締役の役割というのは、企業価値の創出、成長戦略の作成リード、出口戦略づくり、といったように、リターンをまさにドライブしていく要素ばかりにトッププライオリティをおいていて、フツーの非常勤取締役とは、まったくもって行動様式が違うという指摘です。

金融テクニックによる利益創出とともに、実際にビジネスをよくしていくことがPEの世界では求められるということです。実際、こちらのPE人材の採用動向をみると、戦略コンサルタントやインダストリーからの採用が多いようですね。

実際にビジネスをよくするという側面でも、私の経験からすると、PEによってかなりスタンスが分かれています。コスト削減にフォーカスするところ、コスト削減は全く手をつけず、純粋に売上げ増加を目指そうとするところ、産業再編を視野に入れたリストラクチャリングを行うところ、などなど。

ブログ書きはこれくらいにして、試験勉強、試験勉強!イヤなことに、明日はCorporate Financeの試験です。

2009年2月12日木曜日

Appleのかっこいいプレゼン


The Marketing & Entrepreneurship Clubs are delighted to welcome Pascal Cagni, General Manager & Vice-President, Apple Europe, Middle East, Africa & India to the campus.

今日のスピーカーは、Appleのヨーロッパ、中東、アフリカ、インドを統括しているPascal Cagni氏。
名前からも推察されるようにフランス人で、もともとはコンパックの営業を担当していて、ジョブスに声をかけられて、アップルに移ってきたのだそうです。

彼のメッセージは、いたってシンプルなもの。

Break the rule. Change the world. Think differently
みなと同じように考えていては絶対にダメ。ビジネススクールで教える10のことを紹介したのち、それらと全く真逆のことをアップルはやっているということを説明していく。

Streamline product line
アップルのプロダクトラインナップは超シンプル。たとえば、PC事業では、Laptop/Desktop、もしくは、Pro/Consumerの2軸で切った4つの商品ラインナップしかない。

Innovation & Design
R&Dドリブン、かつデザインをとても大事にすべきというメッセージ。

上記のメッセージは、すでにご存じの方も多いと思いますが、個人的に学びになったことは、プレゼンテーションの作り方です。

なんといってもプレゼンテーションマテリアルがとてもかっこいい。AppleのCMやウェブページのように、すっきりとしたシンプルなデザイン、それでいてクールなイメージを与えてくれる、だれもが好きになるプレゼン資料だったと思います。無駄な文字はすべてそぎ落とされ、象徴的なファクトと、動画や静止画、それからイラストを存分に活用されているスライドは、大変勉強になりました。かっこいい。

ストーリー展開もなかなかのもので、たとえばこんな感じです。出だしには、Appleは今は賞賛される企業のひとつですが、わずか10年前は、破綻寸前の企業でしたという話しがあり、ふとスクリーンに目をやると、DELLのCEOのマイケル・デルのコメントが投影されている。もし、あなたがアップルのCEOだったら、どうやってこの会社を建て直しますか?という質問に答えている。

“Shut it down and give the money back to its shareholders”
「私だったら、さっさと会社をたたんで、お金は株主に戻す」

そして、その次に、出てくるスライドには、以下の数字がポッと描き出されている。

アップルの現在の時価総額 $88B
デルの現在の時価総額 $18B

これだけのギャップを見せられると、もうプレゼンテーターはそれほどしゃべらなくても、このわずかなファクトがすべてを自動的に語って、強烈なインパクトともに、聴衆のマインドに刻まれるわけです。


さらにたたみかけるように、直近の四半期の業績も前年比に比較して伸びているという単純な数値をみせられる。数十%減が当たり前の今のご時世において、伸びているだけで、「おおおっ」となる。


劇的な再生劇の事実を示した上で、では、これはどうして可能になったか、その秘密を教えましょう、というこういう流れです。そうすることによって、その次に語る「秘密」の中身に対する聴衆の関心度がぐーんと高まっている状況を意図的につくりだすことに成功しています。

デザインが命の会社は、やはりプレゼンも右脳にビビッドに訴えかけることが得意のようです。


LBSのHPが刷新


London Business Schoolの公式サイトが刷新されたようです。18ヶ月の期間をかけて刷新したということですが、内容や見やすさは改善されているのでしょうか?アプリカントの方は、今一度ホームページをチェックされるといいかもしれません。

2009年2月11日水曜日

チェコの産業は何だろう?


チェコは、20年ほど前まではソ連邦の一翼を担っていた共産主義の国。それが今は、国家としても独立をし、EUに加盟し完全に西欧諸国派に翻った国です。共産主義から資本主義への移行が比較的にうまくいったとされている国のひとつのようです。

さて、そんなチェコはどんな産業をもっているのでしょうか。

その1:自動車
言わずとしれたチェコの自動車メーカー「シュコダ」があるおかげで、チェコは、製造業には定評があるようで、トヨタもチェコに工場をもっています。チェコ人のガイドも、トヨタ車が走っているのをみかけると、興奮して、これはトヨタだぞ!工場がここにあるんだと熱心に説明してくれていましたっけ。


その2:ガラス~ボヘミアグラス
お土産屋やちょっとおしゃれな店をのぞくと必ずあるのが、ガラス細工やグラスの数々。しかし、このご時世、少し高級なグラスを買わなくても困る人がいるわけでもなく、有名なガラスメーカーがバタバタと倒産しているという悲劇に見舞われているようです。イギリスでも、陶器で有名なウェッジウッドー日本でも百貨店でよく見かけますねーが倒産に追い込まれましたが、この手の自分たちを着飾るための、生活必需品ではない産業はとても苦しい時期です。


その3:ビール
世界一おいしいと言われるチェコのビール。私はアルコールをあまり飲めないので、よく分からないのですが、まあおいしいようだ。どこの店にいっても、ビール、チェコ産!と誇らしげにメッセージを出している。現地の人に聞くと、ガラス産業とは全くもって、対照的なことに、チェコのビール産業は、今の金融危機発の経済不況の煽りは受けていないのだそうだ。職を失った人が鬱憤晴らしにビールはかかせないことか。もしくは、こうした常習性の高い生活品は需要が落ちないと言うことか。


その4:観光
そして、何といっても、観光。プラハをはじめとして、いくつもの世界遺産を抱えるチェコは、やはり世界中の旅行者のあこがれの的となっています。厳しい歴史をくぐり抜けているチェコではありますが、本当に幸運なことに、それほど街が破壊されてこなかった分、そのままそれが観光資源としての力となっていると言えるでしょう。

イタリア対ブラジル戦@ロンドン








Italy vs Brazilの親善試合を観戦してきました。クラスメイトのブラジル人が見に行くと言うことで、ブラジル軍団と同じブロックで席を確保することができました。クラスメイトの南米勢(コロンビア、ペルー、ウルグアイなど)もブラジルと同士という感じで、大いに盛り上がっていました。イタリア勢のキレがいまいちなこともあり、Brazilコールはのりにのっており、それらに飲み込まれながら、試合を楽しみました。

2009年2月8日日曜日

浅田真央は不調なのか?

4大陸選手権でSP6位、フリーで挽回して総合でかろうじて3位で表彰台に登ることができた浅田真央。少し前の、「滑れば1位」という状況ではないようで、確実に王者としてのキレがなくなってきています。これは、滑りを見れば、素人でも一発で分かります。ここで多くの人が思うことは、「ああ王者の地位をキープするのは大変だ、スランプ時期に入ってしまったのね」ではないでしょうか。

浅田真央は不調なのでしょうか?

妻は大のフィギュアスケートファンで、妻の話によると、彼女は「今は不調で当然」ということでした。なんで?と聞くと、こんな答えが返ってきました。

“真央ちゃんのジャンプだけど、今は苦手分野を克服しようとしていて、ジャンプするときのエッジの向きを内側から外側に変えているのよ。これは採点で減点されないように。今の採点ルールだと外側じゃないと減点されてしまうわけ。それから、真央ちゃんはサルコ(ジャンプの種類)なんだけど、今それに挑戦しているの。これはずっと今までやってこなかったから慣れてないジャンプね。”

“ジャンプ以外でも、どんどん高度な技を入れてきている。今まで真央ちゃんにとって、ジャンプ以外の時間は彼女にとって「お休み」の時間で、だいたいレベル1の技しか入れてなかったんだけど、今はレベル4の技をどんどん入れてきている。スパイラル(足をあげながら滑る技)とか、ステップシークエンスなんかは格段によくなってきている”

というわけでして、ジャンプもさることながら、ジャンプ以外についても、まさにすべての滑りの大改革を断行している最中ということがよく分かります。今までの成功体験を捨て去って、今までの滑りのパターンを捨て去って、より将来に成長できるように、滑りのリストラクチャリングをこの時期に着々を行っているのです。それも、一個ずつ直していくというより、一気呵成にすべてのパーツを同時並行的に直しているのもチャレンジングだと思います。

こうしたリスクのある取り組みは、オリンピックシーズンではできないから、その前のいまのこの時期にやっているという戦略と見て取れます。「不調」にも二種類あって、単に今までのやり方が通用しなくなっているから「不調」なのか、それとも、将来向けた変革をしているから一時的に「不調」になっているのか。この二つの違いはとても大きいように感じます。

さて、一方の現在の王者、韓国のヨナキムはどちらというと、妻の言葉を借りると、現在の滑りの完成度を上げる、すなわち滑りに磨きをかけているようです。改革を進めている浅田真央と、改善を積み上げているヨナキム。単純に二人を比べることはできないことがよく分かります。

この話しが面白いと思うのは、企業経営にも全くあてはまると思うからです。

単に、パフォーマンスの善し悪しだけを見ていてはダメ。黒字化した、赤字になってしまった、株価があがった、下がった、だけではダメ。そうしたパフォーマンスに影響を及ぼしている、その企業の持っているファンダメンタルの力と、将来に向けた種まきがどうなっているのかどうか、そこに対する考察をゆめゆめ忘れてはいけないことを再確認できます。

とくに今は、どの企業をみても真っ赤っか。でも、その中でも、ちゃんとした企業は今のこの時期を利用して、筋肉質な財務体質の作り込みをしたり、将来の芽を余ったリソースを使って仕込んだり、この株価が安いときに必要なリソースを買収したりと、ひっそりと取り組みを進めていることでしょう。同じ赤字企業でも、業績を不況のせいにするか、将来のための改革の時期とするかは、全くもって大きな分かれ道です。

2009年2月7日土曜日

チェコの世界遺産;チェスキー・クルムロフ

ロンドンにきてから、すっかりと世界遺産巡りが趣味になってきました。今日は、チェコから車で、穏やかな田園風景と雪景色を見ること2時間半、チェスキー・クルムロフにやってきました。


蛇行した川に囲まれるようにして街が形成されていて、わずか歩いて10分ほどで端から端まで歩けるほんとうにこじんまりとした歴史地区です。



チェスキー・クルムロフは、歴史の中で、代々と何人もの富豪によって、少しずつ建造物が加えられ、少しずつ違った側面を与えられながら、今のような歴史の深みがありつつ、どこかメルヘンチックな街へと進化しているように感じます。


石畳の街並。Cozyで、センスのいい小さな雑貨店やペンションが所狭しと並んでいます。奥には、クルムロフ城が見えます。プラハ城に続く、チェコで2番目の大きな城。



街の真ん中に位置する広場には、モニュメントとともに、パステル調のほのぼのとした建物が広場を囲み、なんだか人々をほっとさせてくれます。



***


やや経営的なお話。


驚くべきことに、チェスキー・クルムロフがユネスコの世界遺産に登録されたのは、1992年のこと。何がすごいかといえば、この街の歴史的価値を観光資源化するのにわずか数年しか要していないということです。というのも、ソ連邦崩壊とともに、チェコにも民主化の波が起きたのが、1989年のビロード革命でした。そこから、観光地化が急ピッチで進められ、あれよあれよと言っている間に、すぐにユネスコの世界遺産に登録され、そして世界中の人々が訪れる風光明媚な場所へと早変わりしたのです。


それ以前は、確かに建物としては、何代もの貴族によって発展していったものの、言い換えれば、支配人がころころと変っていった状態。そして戦後は、戦争に負けたドイツ住民を国外追放し、「そして誰もいなくなった」状態となり、やはり街が荒廃したそう。そんな折に、国をもたないジプシー・ロマが、ここはいいということで、住み着いていました。その観光資源というポテンシャルにも関わらず、それどころではなかったというのが、1989年までの実情でしょう。その上、ロマの街ということで、おそらくチェコ人はこの街から距離をおいていたのではないでしょうか。ガイドをしてくれたチェコ人も、「ここはジプシーが多いから車の荷物はすべてもっていくように」と言っていたように、ロマに対しては、私たちには分からないような心理的な距離感を今でももっているようでした。


何が言いたいのかというと、街というのは、そのもっている価値を上手に引き出すことができれば、わずか数年!でその街の意義、役割、見え方をガラリと変えることができるのだとい事実です。どんなに荒廃していたとしても、そこにきらりと光るものがあれば、またお客さんは世界中から来てくれる。日本の地方は、観光旅館がつぶれにつぶれていて、一部の地方では荒廃が進み、なんだかそうした地方にとっては、勇気づけられるエピソードではないでしょうか。

2009年2月6日金曜日

ため息の出る図書館

プラハ城から歩くこと20分
そこには、ストラフ府修道院が中世の姿を残して存在している
見事な図書館を見ることができる
***
「神学の間」
まさに神の空間にいるかのような錯覚
その神秘的な空間に思わず息をのむ

「哲学」の間
天井高く積み上げられた書籍は
やはり哲学的か
美と哲学と書籍
昔はそれらは大いに関連があったのだろう
学問というものが今よりももっともっと
崇高で尊いものであったかが、よく分かる

世界遺産の街;プラハ城

ヴルダヴァ川の畔から歴代王の居城、プラハ城を望む
赤煉瓦の街並の中、黒く尖った大聖堂が目立つ
それは、聖ヴィート大聖堂
門をくぐると突然、その姿を現し、
その迫力には思わず圧倒され
上をしばし、見上げてしまう
その内部は、荘厳そのもの
高さと奥行きのある空間をステンドグラスが囲む
見事な音響空間を
我が子の鳴き声が切り裂く(涙)
ステンドグラスひとつひとつに
それらを護るかのような華やかな装飾が施されている
音楽と美の都、プラハの名に恥じない見事な大聖堂!

旅はまだまだ続く....

2009年2月5日木曜日

学校がInternationally Diverseするのも大変


中欧の都、プラハに来ました。今日は、早速、中世の色を色濃く残すこの街を、たっぷりと堪能しようと思います。中欧諸国はロンドンからわずか2時間という近さなのが何ともうれしいところです。未曾有の金融危機という枕詞を聞いて久しくなってきましたが、その結果としての、円高メリットを思う存分享受すべく、なるべく多くの国に訪れ、グローバルな見聞を広めたいと思っています。

グローバルという意味では、London Business School は、”Internationally Diverse” を強く標榜しています。実際、Associate DeanもこんなコメントをLBSのポータルでしています。


Sabine Vinck, Associate Dean MBA and MiF Programmes, said: "I am particularly pleased that in the MBA ranking we have been recognised as one of the most internationally diverse schools in the world.
"Of the top ten schools, we have the highest percentage of international students, the highest international mobility ranking, and the highest international experience ranking. It is this diverse, global outlook which sets us apart from the competition and is key to the London Business School experience".

当然、グローバル化が進んでいるのだから、学生のダイバーシティを高めるのは必然なのだから、外国人学生比率を高めればいいじゃないか、と思うかもしれないのですが、コトはそう簡単でもないなのです。学生のダイバーシティを高める、すなわち、世界中の国籍の学生を受け入れて、International Student比率、すなわち外国人の比率を高めるのは、ビジネススクールとしては、極めて難しい舵取りを迫られることになるのです。

なぜでしょうか?

端的に言ってしまえば、就職率が下がるからです。外国人学生がその母国に帰って就職すれば、あまり問題はないのですが、英語圏のビジネススクールにくるような学生はどうしても、たとえばロンドンで働きたいとか、アメリカのビジネススクールならば、米国内で働きたいと考える傾向はとても強い。

しかし、そうした学生は、すべてとは言わないですが(もちろん例外はたくさんある)、Nativeと比べれば、リクルーターの目から見れば、どうしても、競争力が落ちてしまう。単純なハナシ、近年の「自国民を雇用せよ」という世論的なプレッシャーがある中で、全く能力が同じ二人がいたとして、ひとりは外国人、もう一人は自国人だったとしたら、リクルーターはどっちをとるでしょうか?つまるところは、そういう問題です。そして、海外労働VISAの問題も絡んできています。

就職率が下がってしまうと、ビジネススクールとしては致命的です。なぜかといえば、そもそもキャリアチェンジを目的としてきている学生が多い中で、ビジネススクールに言っても就職できないということになれば、一気にその学校の人気は地に瞬く間におちるからです。ビジネススクールのランキングを決める上でも、たとえば3ヶ月以内就職率は使われていますし、卒業生がどれだけの割合すぐに就職できるかどうかは、ビジネススクールにとっては、きわめて、きわめて、大事な指標なのです。結局は、「ビジネス」スクールです。ビジネスが卒業後にできなければ話しになりませんから。

そういった事情がウラにはあって、それほど簡単には、Diversityをチャッチャと高めにくい。海外学生比率と就職率という、この相反する命題に折り合いをつけていかなければならないからです。

たしか、留学予備校のAgosの会長も以前、おっしゃっていました。最近は、MBAの受験におけるインタビューで、アドミッションは、何をみているかという話で、こんなことをコメントされていたと思います。MBA卒業後に、受験生が企業で働くだけの英語力があるかどうかをみる、すなわち、授業について行くだけの英語力だけでなくて、卒業後に企業で活躍できるだけの英語力があるかどうかを見る、というのです。このあたりもやはり、就職率を意識しているが故のコメントだと思います。

そうした状況の中で、我田引水的ですが、London Business Schoolはけっこう頑張っているんじゃないかなあと思います。海外学生比率は、おそらくもっとも高い水準を維持しながら、就職率を他のトップスクールと同じ、というのが、LBSが評価されてきている理由のひとつでしょう。ここの仕組みを作ることができたことが、今は大きな強みになっているように思います。

一方いままではよかったのですが、これだけのInternational Studentsを抱え込んでいるので、これからが大変です。今のように、超「就職氷河期」においては、非常に就職率が影響を受けやすくなります。職が大量にあればいいでしょうけど、今のようにシューンとしぼんでしまっているようなときには、やはり、海外学生組は、不利に成らざるを得ません。Deanは、「ありとあらゆるリソースをCareer Service(就職支援課)に振り向ける。これがトッププライオリティだ!」と言っていましたが、学校としても、何とか学生に職を確保してもらおうと懸命です。

以上、ビジネススクールがInternationally Diverseするのもけっこう大変なんです、というお話でした。

さあ、これからプラハの街へ踏み出してきます。



2009年2月3日火曜日

18年ぶりのロンドン大雪

年が明けてから、ようやく暖かくなってきたなあと思っていたら、昨日は急に冷え込み、しまいには雪が舞い始めました。一夜明けて、起きてみたら、窓からの景色は激変して、辺り一面銀世界ではないですか。とはいえ、積雪量は、10cmにも満たないくらいで、驚くのもつかの間、そそくさと学校に行く準備をする。東京人的感覚からすると、この程度の雪では、公共機関のオペレーションは普通に行われるし、ましては仕事や学校が休みになるとは考えない。

子供が無邪気にはしゃぎながら、

「うわぁあ、パパぁ、ゆきだよぉーゆきぃー」

など、窓に顔を貼り付けながらと喜んでいるのをみると、自分は子供心を失ってきたなあとも思う。私の心境は、

「この雪の中、学校に行くのはかったるいなあ」

ですから。なんとも大人になってしまったものだとしみじみと感じます。

ちらっとiPhoneに目を通して、メールをチェックをすると、学校のメーリングリストに大量のメールがたまっているではないですか!今日は学校はあるのか?遅れてはじまるのか?休みになったか?などなど、学校が休みになるはず、という思惑のメールが飛び交っているのです。

「バカな、もちろん、学校あるでしょ」

と思っていた私がバカで、街中に出ると、ありとあらゆる公共機関が麻痺しているではないですか。私はかろうじて、Baker Streetにまでたどりついたものの、駅の中はごった返していました。

学校につくと、教室の中はガラーんとしており、ポツンと教授が待っているという、なんともわび寂しい光景です。教授も授業をはじめるべきかどうかとMBA Programme Officeに何度も電話で確認しているようで、来ている生徒もザワザワ、一体どうなるんだと、動向を見守っている。

結局、授業は予定通りすべて実施するものの、出席はとらないことになりました。マーケティングのポジショニングの授業で、題材はアメリカの電動工具メーカーが、我が日本が誇るMakitaをガチンコ勝負で追撃するという、日本人的にはハラハラするケースで面白い。
授業は実施されたものの、授業以外の様々なイベントや、学校内で行われるインタビューはすべて中止。翌日の午前中のクラスも中止でした。

「は?」

たかだかこれくらいの積雪で何をこれほどまに騒いでいるんだ!という日本人の私の感覚ですが、こちらではそうではないらしいというのが、何とも都市の違いを見ているようで滑稽です。

クラスメイトのイギリス人によると、こんな大雪(というか、実際は普通の雪なのですが)は、20年降りだと言っていました。とにかく、ロンドンにとっては未曾有の出来事だったのです。

実際、Financial Timesによると、いかにインパクトが大きかったが分かります。労働人口の20%が家にずっといたとのこと。そして、およそ半分の会社で、平常時に比べたら約半分しか、仕事をできなかったとのこと。そして、最後は首相まででてきて、「われわれはできる限りの施策を打って、公共機関を正常に戻すことにつとめている」という声明までしていました。

LBSは授業を行いましたが、LSEやその他の学校、またうちの子の保育園は全休になったというから、なんとも雪に脆弱な都市と言えるでしょう。

ここで忘れてはいけないのは、この雪は予測されていたことなのです。にも関わらず、このような大混乱を引き起こしてしまったことは、非難されるべきでしょう。

たとえば、20年降りというのなら、20年前の混乱はどうだったのか、ロンドン以外の大都市でこのような大雪があったときにはどのような対処をすべきか、など事前に学び、それ相応の予防策はもっとはることができたはずです。とくに北米の大都市は、この程度の積雪は日常茶飯事でしょうから。

解決策はあるのに適切に既存のナレッジが展開、今回の件は適応されていないひとつの典型的な例ではないでしょうか。

イギリスは、ポンドの超安、金融危機、経済危機に加えて、ロンドン大雪ショックと、最近踏んだり蹴ったりな日々です。

おまけ:雪のLondon Business School。いつもとはまた違う美しさを見せていました。


2009年2月2日月曜日

秩序を保つ「6つの力」

London MBA Clubというロンドン在住のMBAホルダーを中心に集まる会に顔を出してきました。定期的に、ゲスト講師を招いて、さまざまなトピックについて、ディスカッションをしているようで、今回は、ブリストル大学の勝間田弘先生が講師として、いらっしゃって、アジアの安全保障についてレクチャーいただきました。そして、じつにこれが面白い!

アジアの安全保障というと、なんだか乾いたトーンですが、ようは、秩序というのはどうやって保たれるのか?というけっこう根源的な問いかけが主題であって、アカデミアの奥深さを少し感じる冬の夕べでした。

そもそもの問題意識としては、アジアは中東なみの問題含みの地域なのに、中東のようにあんなに荒れず、武力行使の戦争もドンパチそんなに起きずにいられるのか?ということでした。アジアの問題というのは、言わずもがなの北朝鮮、それから、日中関係、東南アジアの領土紛争などなどを先生は指摘されていました。

最大の学びは、世の中の安全保障の秩序を保つ「力」には6つあるというのです。とても興味深いと思います。

1. 勢力均衡 Balance of Power→相手がデカイから、一緒になって対抗しようよ→例:軍事同盟
2. 覇権 Hegemony→みんなついてこい!→例:アメリカ
3. 大国間の協調 Concert→軍事的に政策協調しましょうよ→例:19世紀の欧州
4. 経済相互依存 Economic Interdependence→お互い仲良くしていた方がビジネスが儲かるから、戦争をせず仲良くしようよ→例:台中関係
5. 協調的安保 Cooperative Security→そもそも戦争なんかしちゃいけないんだよ!そうでしょ?だから戦争はやめようね!→例:米ソ軍縮
6. 安保共同体 Security Community→我々はみんな同じ仲間じゃないか!だから戦争なんかするわけないよね!→例:欧州連合

そして、そもそもの問いである、アジアの安全保障がなぜ成り立っているのかという答えは、上の6つの力がけっこう働いているというもの。たとえば、2.にしたら、やはりなんだかんだいって米国の覇権下にアジアはあるわけですし、3.にしても日中米の協調路線はあります。4.は、もう明かでしょう。5.や6.については、ASEANがその役割を担っているというもの。

さらに、この理論の面白いところは、1番目の力から6番目の力というのは、進化のプロセスであるという指摘です。言い換えると、協調的安保、安保共同体といった力の方がより進化的というか、崇高的というか、よりありがたい力というわけです。このひとつの到達例が、EUです。

アジア人の私からしてみれば、とんでもないことをEUはやったなとしみじみと思います。EUには、ゲルマンもラテンも、スラブも民族的には、ごちゃまぜですが、ある種の規範と、そこに”We European”というひとつの共通のアイデンティティを作る出したことは、ため息がでるほどすごいことだと思います。

私たちが、中国人、韓国人、そして東南アジアの諸国と、胸を張って、誇り高く、We Asianと言うには、あとどれだけの障壁を乗り越える必要があるのか。私の勝手な印象論ですが、6つの力のうち、おそらく、1から4は強く働いているのでしょうが、協調的安保、安保共同体といった、より高みの力に関しては、まだまだこれからでしょう。

ここでの素晴らしいことは、アイデンティティというのは、「作ることができる」という事実でしょう。勝間田先生もおっしゃっていましたが、アイデンティティというのは、民族に求める必要がないというもの。民族以外に、アイデンティティを作れることをEUは証明したし、EUが辿った道を参考にすることで、ある地域での安全保障を作り出すことができる可能性があるというのは、真にもっていいニュースだと思います。

そして、そうした、より崇高な力を醸成していった暁には、「安全保障」という、なんというんでしょう、後ろ向きの言葉ではないでしょう。その代わりに、その共同体の営みを通じて、「豊かさの向上」につながっていけば、とても素晴らしいことだと思います。