2009年2月2日月曜日

秩序を保つ「6つの力」

London MBA Clubというロンドン在住のMBAホルダーを中心に集まる会に顔を出してきました。定期的に、ゲスト講師を招いて、さまざまなトピックについて、ディスカッションをしているようで、今回は、ブリストル大学の勝間田弘先生が講師として、いらっしゃって、アジアの安全保障についてレクチャーいただきました。そして、じつにこれが面白い!

アジアの安全保障というと、なんだか乾いたトーンですが、ようは、秩序というのはどうやって保たれるのか?というけっこう根源的な問いかけが主題であって、アカデミアの奥深さを少し感じる冬の夕べでした。

そもそもの問題意識としては、アジアは中東なみの問題含みの地域なのに、中東のようにあんなに荒れず、武力行使の戦争もドンパチそんなに起きずにいられるのか?ということでした。アジアの問題というのは、言わずもがなの北朝鮮、それから、日中関係、東南アジアの領土紛争などなどを先生は指摘されていました。

最大の学びは、世の中の安全保障の秩序を保つ「力」には6つあるというのです。とても興味深いと思います。

1. 勢力均衡 Balance of Power→相手がデカイから、一緒になって対抗しようよ→例:軍事同盟
2. 覇権 Hegemony→みんなついてこい!→例:アメリカ
3. 大国間の協調 Concert→軍事的に政策協調しましょうよ→例:19世紀の欧州
4. 経済相互依存 Economic Interdependence→お互い仲良くしていた方がビジネスが儲かるから、戦争をせず仲良くしようよ→例:台中関係
5. 協調的安保 Cooperative Security→そもそも戦争なんかしちゃいけないんだよ!そうでしょ?だから戦争はやめようね!→例:米ソ軍縮
6. 安保共同体 Security Community→我々はみんな同じ仲間じゃないか!だから戦争なんかするわけないよね!→例:欧州連合

そして、そもそもの問いである、アジアの安全保障がなぜ成り立っているのかという答えは、上の6つの力がけっこう働いているというもの。たとえば、2.にしたら、やはりなんだかんだいって米国の覇権下にアジアはあるわけですし、3.にしても日中米の協調路線はあります。4.は、もう明かでしょう。5.や6.については、ASEANがその役割を担っているというもの。

さらに、この理論の面白いところは、1番目の力から6番目の力というのは、進化のプロセスであるという指摘です。言い換えると、協調的安保、安保共同体といった力の方がより進化的というか、崇高的というか、よりありがたい力というわけです。このひとつの到達例が、EUです。

アジア人の私からしてみれば、とんでもないことをEUはやったなとしみじみと思います。EUには、ゲルマンもラテンも、スラブも民族的には、ごちゃまぜですが、ある種の規範と、そこに”We European”というひとつの共通のアイデンティティを作る出したことは、ため息がでるほどすごいことだと思います。

私たちが、中国人、韓国人、そして東南アジアの諸国と、胸を張って、誇り高く、We Asianと言うには、あとどれだけの障壁を乗り越える必要があるのか。私の勝手な印象論ですが、6つの力のうち、おそらく、1から4は強く働いているのでしょうが、協調的安保、安保共同体といった、より高みの力に関しては、まだまだこれからでしょう。

ここでの素晴らしいことは、アイデンティティというのは、「作ることができる」という事実でしょう。勝間田先生もおっしゃっていましたが、アイデンティティというのは、民族に求める必要がないというもの。民族以外に、アイデンティティを作れることをEUは証明したし、EUが辿った道を参考にすることで、ある地域での安全保障を作り出すことができる可能性があるというのは、真にもっていいニュースだと思います。

そして、そうした、より崇高な力を醸成していった暁には、「安全保障」という、なんというんでしょう、後ろ向きの言葉ではないでしょう。その代わりに、その共同体の営みを通じて、「豊かさの向上」につながっていけば、とても素晴らしいことだと思います。

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