2009年6月27日土曜日

MBA1年目の学び “貢献する責務”

最後に残った、リーダーシップに関するレポートを書き終え、内容を担当教官とディスカッション。そして、少し手直しをして、レポートをメールに添付して、Outlookの送信ボタンを押す。これにて、8月の末に始まったMBAプログラムの1年目のカリキュラムを全て終了。

そう、誰もが言うように、MBAの生活はあっという間に過ぎ去っていく。そして、私自身、その意味を実感することとなりました。

1年間、正確に言えば、この10ヶ月を経て、何を学んだのだろうか?目を閉じて、じっとこの10ヶ月を振り返る。わずか10ヶ月ではあるのですが、いくつも自分の中の考え方が変化していることに気付くのです。

変化しているという表現は違うかもしれません。今までの自分というのはそう簡単に変るモノではありません。なんというのでしょう、今までの自分の考え方に“追加”して、いくつかの新しい価値観の柱が構築されつつある、そんな感覚なのです。

そのひとつが、「貢献する責務」です。

人は、社会に対して、所属するコミュニティに対して、もしくは所属する組織やチームに対して、自分が貢献できるところがあれば、「貢献する責務」があるのではないか、そんなことを明確に感じさせてくれるMBAの1年目でした。

「社会に貢献する」なんて、至極当たり前だと思われるかもしれません。そう、事実、全くもって、当たり前のことなのです。私も、MBAに来る前からもちろん、そうしたことを大事に思っていましたし、出願エッセイにも、CSRに関しても論じました。その考えがようやく、自分の中に違和感なく溶け込んでいって10ヶ月だったと思います。

どうして、そのように考えるようになったのでしょうか。

それは、端的に言えば、こちらにきて、自分が所属している社会、組織、チームからの恩恵に比べて、自分が貢献できていることというのはあまりにも限られている、その事実に気付いたことだと思います。

だからこそ、少しでも、自分ができること、自分が貢献できることを、見つけたならば、そのアンバランスを解消するためにも、貢献する責務があると感じるようになったのです。

ロンドンにきて、こちらの生活をセットアップするのに、周りに大変助けられました。子供の学校探しからはじまり、身の回りの準備など様々なアドバイスをいただきました。

ロンドンビジネススクールで、主催されている数多くのイベント、カンファレンスなどにも、参加することができたのも、私が受けた莫大な恩恵のひとつです。ほとんどこうしたイベントは生徒の多大なボランティア活動によって支えられています。

多くのゲストスピーカーは、無償でキャンパスにきてくれ、学生のためにという思いで-もちろん、自社や自分をブランディングする目的もありますが-人によっては、海外から駆けつけてくれるわけです。

学生は、この大不況下、就職もかなり厳しい中、時間を捻出し、各種のイベントを精力的に開催しています。もちろん、そうしたイベントを開催することが、人脈作りに役に立ち、就職に有利になることはあるにせよ、イベント開催に関わる実務の煩雑さを考えると、頭が下がります。

アカデミックでいえば、スタディグループのメンバーにも、レポートの英語のチェックなどいろいろとお世話になりました。

こうしたコミュニティメンバーの貢献によって、私のキャンパスライフ、コミュニティライフが充実しているものになっていると、ひしひしと噛みしめています。

一方で、自分が貢献できることというのは、きわめて限られていると実感する10ヶ月でもありました。だからこそ、少しでも貢献できることがあれば、貢献しなければ!と駆り立てられる自分をときどき発見していったのです。

コンサルティングについてよく知っている私は、この業界に就職したいクラスメイトのアドバイスしたり、コンサルティングクラブの執行委員をしたりと、自分ができることはやろうと考えていますが、そうはいっても、受けている恩恵の方が大きいのは事実。たとえば、地域コミュニティへの貢献などはほぼゼロ。このあたりは、今後大いなる課題。

でも、こうした「貢献する心」というのは、「キャリアゴールを明確にして、それに必要なスキルを身につけて、邁進していくそうした従来型の考え方」にもとづけば、まずもって切り捨てられることでしょう。

たとえば、就職だけを考えるなら、イベント1つ企画して実行する手間ひま、労力より、就職希望先の人とネットワーキングしたり、カバーレターを磨いていった方がいいでしょう。従来型のキャリアゴールを設定して逆算する方式「だけ」を拠り所に突き進む重大な落とし穴があるように思うのです。

一方で、以前のブログでも触れましたが、企業経営についても、「社会に貢献すること」を第一義的におく企業の方が、純粋に利益を追求する企業よりも、結果的に収益率が高いことが実証されています。また、「貢献する心」、英語でいえば、Citizenshipというのでしょう、Citizenshipの高さと組織パフォーマンスは相関することも組織行動学的に分かってきていることも、「貢献する心」の大事さを物語っているでしょう。

「貢献する責務」。私が実践しきれているかといえば、まだまだクエスチョンマーク。これはこれからの課題。でも、この考え方は、この年になってようやく、自分の中に強く醸成されつつあり、これからの人生を生きていく上での指針となる、私の中のひとつの価値観となっているのを感じる至ったMBAの1年目だと思うわけです。

2009年6月26日金曜日

フィンランド写真集3; ロシアとスェーデンの激戦地Porvoo

フィンランドのヘルシンキから車で1時間ほど走ると、
Porvooと呼ばれる小さな街がある。
石造りが多いヨーロッパにあってはめずらしく、
全ての建物が木造で、パステルカラー調にペイントされている。

そんなPorvooは、ロシアとスェーデンの激戦地でもあった。
この建物がなんとも象徴的。
幾多の戦いの度に修復し、壁模様が幾重にも重なっている
建物から見て取れると、ああそこに歴史あり、と感じる瞬間。
やはり、水辺とは切っても切れないのがフィンランドの生活か
静かに流れる川に面するかのように、カラフルな軒が連ねる。
この景観を温存するために、
市民は家の色を変えることも形を変えることも許されないそうだ。

フィンランドではお決まり~船上のカフェ。
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2009年6月25日木曜日

北欧へもう一度行こう!

フィンランドに行って以来、妻とともに北欧にはまっています。じつは、私が試験に忙しかった頃、妻は息子を連れて、スェーデンに二人旅に出かけにいってるくらい。

なんといっても、人がとても穏やかで親切。日本人的にはとてもうれしい。日本的な丁寧さをそこらかしこで、感じることができて、なんだかほっとするというか、1年ほどロンドに暮らしていると、懐かしい感覚というか、そんな感じです。

それから、地政学的にとても面白い位置にあるのが北欧諸国です。じつは、フィンランドに行くまで、あまり意識していなかったのですが、フィンランドの隣国はロシアなのです。それも、フィンランドの東側の国境をビターッと張り付くようにロシアが寄り添っている。

事実、フィンランドの歴史を振り返ると、ロシアの支配下にあったこともありました。だから、多分にロシアの香りもフィンランドをするわけです。それから、バルト三国が、もうすぐこそという位置。とくにエストニアはもう目と鼻の距離。

そんなわけで、ヘルシンキの街中のInformation Centreに行くと、ロシアへのパッケージツアーや、エストニアのタリンへのフェリーツアーなどがバンバン売りに出されているのです。

そして、フィンランドとスウェーデンの関係も面白い。フィンランドの現地の人に聞くと、フィンランドとスェーデンは、文化的な背景や、インフラなどは極めて似ているとか。実際、スウェーデンに行った妻に聞いてもそうみたい。

しかし一方で、歴史を紐解くと、フィンランドは、スウェーデンに支配されていた時期もあり、今でも、フィンランド人にとって、スェーデン人は、「Beloved Enemy」とのこと。

どこかで聞いたような話です。近い民族同士はお互い好きなんだけど、近いが故にいざこざがおきやすくケンカもするというのは、日韓や日中の関係を考えてみても、「ああ納得」です。

そんなわけで、次回の旅が決定。

まずは、ロンドンからフィンランド・ヘルシンキに飛び、再びフィンランドを味わったのち、フェリーを使って、エストニアのタリンとその周辺を満喫。初のバルト三国体験です。ヘルシンキから、フェリーで、1時間半でタリン。そのあとは、タリンから、またフェリーにのって、スェーデンのストックホルムへ向かう。1泊ですが、クルーズの旅を堪能したいと思います。最後は、スェーデンを堪能して、おしまいというもの。

そのあとはまた、東ヨーロッパ、南東ヨーロッパに足を伸ばしたいと思っています。ブルガリア、スロベニアや、クロアチアあたり。旅のことを考えるとキリがありません!

フィンランドに学ぶ「産業ポートフォリオの大転換」

クラスメイトに「どうしてフィンランド行くの?」と聞かれることもしばしば。「北欧の国に行きたかったんだよ」とさらりと答えているのですが、じつは私には、フィンランドに行きかった本当の理由があるのです。

コンサルティングファームに入社すると、遅かれ早かれ、ある種の「洗礼」を受けることになります。それは、ロジカルシンキング的な思考体系を、強制インストールされるのです。脳の思考回路を強烈にチェンジさせられる、そんな儀式です。

私にとってのこの儀式が、フィンランドに関する調査だったのです。だから、何とも思い出深く、そして苦しい、今から思い返すとほろ苦い思い出のするプロジェクト。そのプロジェクト以来、いくつか、フィンランドに行きたいと思っていて、ようやく実現したわけなのです。

そのときのプロジェクトのクラインアントはある政府機関で、IT関連の国家政策をもとに、日本にとってのIT政策の示唆だしをするというものでした。

まだ、北欧ブームの前でしたし、もちろん、日本と北欧との産業的なつながりもそれほど強くないため、情報も集まりにくい。その上、当時、私は、ベンチャー企業のような独立系のコンサルティングファームにいたので、海外ネットワークが使えず、今のように海外オフィスからヒョイヒョウイ情報をとってくることもできなかったのを思い出します。
だから、それこそ、足を棒にして情報をかき集め、フィンランドのありとあらゆる機関にメールを出しまくり、電話したのも、今ではいい思い出です。

フィンランドは、1980年代後半に未曾有の金融危機を経験するも、その後、国の国際競争ランキングで、トップ5に入るまで、大躍進を遂げているのです。フィンランドは何をやったのか?

一言でいえば、フィンランドの産業のポートフォリオを大改造したのです。その中身は、IT産業を創造したことにつきます。フィンランドの伝統産業は、紙・パルプです、なんていったって、森の国ですから、木材が一杯とれます。それからゴム。これも樹木系ですね。そんな森の国が、IT路線に大胆に舵を切ったのが1990年代頭です。

フィンランド発で有名な企業とえいば、NOKIAでしょう。そう、ノキアです。ノキアの出自はゴム屋さんですが、もちろん今の主力事業は通信機器です。これこそ、フィンランドの大改造を象徴している企業といえます。

そして、フィンランドは、今や、見事にITに強い国のひとつとして数えられるようになりました。ここで、面白いのは、従来型の産業もしっかりと残っていることです。今でも、フィンランドでは、紙・パルプは主力産業のひとつです。それに加えて、「IT産業」も創造されたため、結果として国のGDPは増加したわけです。

振り返って、日本は、どうでしょう。今日の日経のニュースでも、JALの支援策が発表されていました。さまざまな企業への公的資金注入も報道されています。要は、日本は、既存産業を維持しようとしているのです。今の産業を維持しようとする日本、新しい産業を加えたフィンランド、そんな違いが明確に見えてきます。

私のコンサルタントとしての、初めての洗礼は、企業へのコンサルティングではなく、政府のお仕事でした。でも、そこで学んだ仕事のやり方はもちろん、何が国家方針のカギなのか、その原理原則-たとえば、どうやって新たな事業をつくるかなど-は、そっくり企業経営に応用できるもので、その後の私のコンサルティング・ライフの礎を作ってくれたプロジェクトでした。

そんなことを思い出しながらのフィンランド旅行でした。

2009年6月22日月曜日

フィンランド料理はどういうの?



フィンランド料理をいただこう。
この日は夏至の祭りで、
ヘルシンキで空いているレストランはわずか二十数件!
そのうちのひとつ、SAVOTTAへ。
白夜の国フィンランドは日が暮れる気配が全くありません。



まずは前菜から。
さすが、冬はマイナス二〇度にまで低下する極寒の国。
味付けが濃く、保存性の高そうな料理が並びます。



肉料理。
これは、ソーセージとDeerを焼いたもので、
最後にクランベリーソースがかけてある。
まあまあかな。



魚料理。
これは美味。まるで鰯を食べているようだ。
島国フィンランドと日本との共通点は、魚料理だった。
シンプルなマッシュドポテトと味付けされた魚がよく合うこと。
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2009年6月20日土曜日

フィンランド庶民の優雅な生活ぶり

フィンランドは一人当りGDPが51,989ドルときわめて大きい。日本が38,559ドルですから、まあ、ざっと軽く25%くらいは多いわけです。

じつは、経済的に豊かなだけでなく、僕ら日本人が持ち合わせていない”本当の豊かさ”を体現しているんだと改めて実感しました。昨日1日見聞きしたことをもとに、そんなフィンランド人の生活について迫りたいと思います。

ヘルシンキ沖のクルーズを楽しんでいると、入り組んだ海岸線や、小島のあちらこちらで、別荘のような邸宅が散見されました。家同士が密集していることもなく、豊な緑の中に、海を面するかのように居を構えているのです。邸宅によっては、プライベートボートが寄せ付けてあります。


ところが、これ、フィンランド人の普段の住まいというのです。現地の人に聞いてみると、それも別に富裕層の住居ではなく、ごく一般の人もこうした住まいをもっているというのです。住居の陸側には、バスが運行していて、街まで10分から15分でいくことができて、通勤も快適というではないですか。

ヘルシンキの人口も大きくなってきていて、こうしたタイプの住居が足りなくなってきているようで、政府も手をうっているようです。都市部の港湾をすこし郊外側に移し、そこの土地を住居地域に変える計画を推し進めています。

それだけではありません。フィンランドの家族は、だいたいサマーコテージをもっているというではないですか。いわゆる「別荘」です。

フィンランドは、国土面積は日本とほぼ同じ、だけど人口は500万人ぽっち。だから、一人あたりの土地がべらぼうにあることがよくわかります。人口密度でいえば、日本の5%くらい。

そんな贅沢な土地を利用して、とくに湖や自然が豊かなより北の地域に、そのサマーコテージとやらをもっているわけです。毎年夏になると、家族でサマーコテージに移り、涼しげな夏を過ごすことになります。もちろん、学校の夏休みも長く、11週間まるまる休みだそうです。

ちょうどこの時期は、夏休みの真っ最中、さらに夏至のお祭りということで、みんな一斉に北方に民族大移動をしたあとで、街はなんというか、もぬけの殻というか、そんな感じがします。

フィンランドの日常生活に欠かせないのが、サウナ。500万人の人口に対して、サウナは200万!もあるそうで、彼らの熱狂的なサウナ好きを垣間見ることができます。アパートには、必ず1個はサウナはあるというし、もちろん別荘にはサウナがついています。

冬の極寒、マイナス二〇度!の中でも、湖に裸でチャポンと飛び込み、その後「寒い寒い」と良いながら、サウナに飛び込むのがなんともいいのだとか。日本の露天風呂のようなもんでしょうか。

森と湖の国と言われるフィンランドの名に恥じることなく、自然と共生している日常生活なんだなあと実感しています。それでいて、世界トップレベルのGDPを実現しているわけですから、それこそ二一世紀的なライフスタイルの秘訣をこの国はもっているようです。

フィンランド写真集2;北欧ショッピング


ヘルシンキ最大級のデパート:STOCKMANN
ちょうどセールの時期で、あちらこちらで値引きのフラグ

STOCKMANNは、市場のような、ごった返したデパート
でも、北欧らしい家具、インテリアがたくさん


そして、日本人に今や大爆発の"marimekko"
フィンランド発のアパレル・雑貨ブランド

イギリスの"Cath Kidston"のフィンランド版?


ポップで力強い、でもどこかやさしくてまるみのあるデザインが特徴的
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フィンランド写真集


飛行機から望むフィンランドの森と群島諸島
さあ、まもなくヘルシンキに着陸だ!

エスプラナーディとよばれるヘルシンキのメインストリート
森の都にふさわしく、緑で一杯だ
フィンランドの英雄的詩人ルーネベリの像とともに


クルーズを楽しもう 
ヘルシンキ沖から望む街並み
落ち着いていて、ゆったりしているのが特徴的
左手にヘルシンキ大聖堂、
右手に北欧最大級の教会ウスペンス寺院


そして、これがヘルシンキ大聖堂とその前の広場
白亜の殿堂とそれを取り囲むパステル調の官舎が
フィンランドのやさしさを醸し出している
ただいま夜の9時、そうフィンランドは日が異様に長いのです
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2009年6月17日水曜日

薔薇園@Regent's Park

薔薇は英国には欠かせない!
リージェントパークで見る100万本の薔薇。





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2009年6月14日日曜日

書評 プライベートレーベル戦略

最近、小売りの自社ブランドが増えたと思いませんか?たとえば、セブンイレブンに行けば、お菓子からはじまり、アイスクリーム、調味料、日用用品にまで、ありとあらゆる商品がセブンイレブンまたは、セブン&アイのロゴが入ったプライベートレーベル品を見かけるはずです。小売りの商品の中で一大カテゴリーを占めるようになったプライベートレーベルを論じた一冊がこれ。

昨今の巨大小売りのプライベートレーベルに翻弄されているメーカーにとって、またはプライベートレーベルをより進化させたいと考えている小売りにとって、極めて有益な本ではないかと思います。



プライベートレーベルのデカさについて語った上で、小売りのプライベートレーベル戦略、およびそれに対抗するためのメーカーのとるべき方向性について論じている本です。先日、著者であるNirmalya Kumar教授の小一時間のセミナーに気軽に参加したところ、すこぶる示唆深かったので、思わず本を買った次第。

プライベートレーベルの大きさ
業界の人には常識になっている観もありますが、まずは、そのプライベートレーベルのデカさについて、こんな単純な、でも切れ味の鋭いスライドでガツんと示されます。




その1:世界一のメーカーは、ネスレでもP&Gでもなく、ウォルマートである
その2:トップの小売り企業のプライベートブランドは、売上げはハンパなく大きい
その3:小売り企業の売上げに占めるプライベートブランド比率もこれまた、デカい

驚くなかれ、教授によれば、P&Gの売上げの16%、ケロッグの14%の売上げはWalmart1社に支えられているのです。

小売りのプライベートレーベル戦略
「自社ブランドって、メーカーの廉価版でしょ」
この認識は、大間違いで、世界のトップリテーラーは、メーカーよりもしたたかにマーケティングを展開しているというのがメッセージ。

たとえば、イギリスでは優良企業でしばしば挙げられることのある、小売り企業テスコ。あなたがテスコに行って、オレンジジュースを買うと想定しよう。あなたは、こういう商品に出会うことになる。

1リットル0.33ポンド Tesco Value(超安いオレンジジュース)
1リットル0.95ポンド Tesco Organic (メーカーと同等、でも安い)
1リットル1.62ポンド Tropicana (メーカー品)
1リットル 1.68ポンド Minute Maid (メーカー品)
1リットル 1.84 ポンド Tesco Finest (メーカー品よりもっと高品質高価格)

何が起きているでしょうか?

メーカー品が、見事に挟み撃ちにされているのです。

もちろん、テスコはメーカーの廉価版も作っているけど、メーカーと同等だけど価格が安い商品、さらには、メーカーよりもうんとプレミアムを乗っけた超デラックス商品にまで手を広げているわけです。

一方で、メーカ-はそうはいっても、テスコの購入額はばかでかいので、テスコの意向は無視できないというジレンマに陥っているのが見て取れます。

「マーケッターになりたいんだったら、P&Gじゃない、いまやリテールに行っても、面白いことがたくさんできるよ」(Nirmalya Kumar教授)

メーカーの戦略
この書籍で書かれているのは、基本的に次の3つ。


1.Fight Selectively; 商品を絞れ
2.Partner Retailers Efficiently;上手にリテーラーと付き合え
3.Innovation;やっぱり商品のイノベーションをしないとダメ

と書くと、当たり前に聞こえるので、この提言の真価は、その細部にあります。たとえば、1.について。

ドイツのマーケットで、1999年から2003年にかけて、Consumer Goodsのシェアがどのように推移していったか調査されています。これまた、衝撃的。以下、1999年→2003年のシェアという見方。

業界一位二位の商品 23.5%→21.9%
業界三位以下の商品 28.2%→22.2%
プライベートレーベル 23.4%→32.1%
プレミアム商品 11.8%→11.9%

まず、驚くのは、このわずか4年で、プライベートレーベルの浸透率の急増ぶりでしょう。そして、これがメーカーに多くの示唆をわれわれに与えてくれています。

  • プレミアム化しろ
  • シェアNo.1、No.2になれ
  • それ以下のシェアならば、利益を小売りに渡す(大幅値引き)覚悟でやれ
  • それができないならばブランド毎きれ

***

まだ日本語に訳されていないようですが、マーケターは必読の書でしょう。

日本ではまだ出版されてないけど、面白い洋書や論文はいくらでもあり、今後、このブログでも、気の向くままに、自分の備忘録のためにも、そうした文献を取り上げてみようと思います。

2009年6月11日木曜日

号外~LONDON速報

“仮”の話しです。

東京都内の電車全てが動かなくなったと想像してみよう。それも、少しの間、たとえば、1時間とかではない。まる2日間、48時間、駅構内に入れなくなったと想像してみよう。さて、明日から、どうやって、会社や学校に行こうか、と思うに違いない。

じつは、驚くなかれ、今、このロンドンでは、まさにそれが“仮”の話しではなくて、現実に起こっているのです。ロンドン市内の地下鉄が、ほぼ全てが、ストップしているのです。もちろん,朝のラッシュの帰りのラッシュもお構いなしに、すべて停止。そう、ストというやつです。日本では、久しく聞いていなかったストライキですが、ここロンドンの地であっさりと経験することとなりました。

それこそ、朝、そして夜も、ロンドンの街がひっくり返ったかのような大混乱ぶりです。今まで地下に潜っていた人が、全て地上にわき出てきたような有り様で、道路には車がうじゃうじゃ、歩道には人とうじゃうじゃ、自転車もうじゃうじゃ。


面白いもので、Trasporation for Londonの公式ホームページに行くと、代替手段として、「徒歩」というのがあり、出発地と目的地を入れれば、何分かかるか出てくる。現実問題、バスも溢れ、タクシーもつかまらない状況下では、「徒歩」で行かざるを得ない人も多いのです。



ロンドンは、それはそれは、国際都市で、それなりの“格”があって、しかるべきなのですが、公共機能が2日にもわたってストップし、今日だけで数百万人の足に影響が出るというとんでもないチョンボをしでかしたことになります。なにやら、2年前もストが起きているとか。

企業側の主張は、そこそこ、まともではないのか
コトの発端は、経営破綻しかかった地下鉄のインフラ管理会社を、ロンドンアンダーグランドに吸収する際、バックオフィスの人員合理化しようとしたこと。しかし、冷静に考えれば、それが間違いとは誰も云えないのではないか。また、ロンドントランスポーテーションは、賃料に関しては、この不景気のどん底にも関わらず、引き上げ案を提示している

大都市においては、ストが、結果的にポジティブに働くとは考えにくいのではないのか
そもそも、ストの効果はあるのか?昔の炭坑の時代、すなわち、劣悪な労働環境を改善要求していた頃と、今では状況が全く違う。そこそこの生活水準に達しているロンドンにおいては、その効果はかなり低いのでは?労働組合側は、ストが社会的に、大きなインパクトを与えることから、企業側がそれに譲歩するだろうと期待して、ストを起こす。しかし、企業側も、ストをしたからといって譲歩したら、「ストをすれば譲歩する」という認識が生まれるのを恐れ、おいそれと譲歩することはできない。

日本では、航空会社や私鉄がストを昔(今でも?)やっていた時期がありますが、ストをやったから、結果的に何かいい方向にいったかといえば、そんな話し、聞いたことがありません。航空会社などは、業績が悪くなる一方。

誰もが得をしない、局所解にはまり込んでしまっている?
結果的には、誰もが得をしない、局所解にはまり込んでしまっている!企業側も、譲歩したくても、譲歩できなくなるし、結果的に、労組側も果実を受け取ることができない。また、ストのインパクトで、足止めされた体勢の世論は、労組に賛同するだろうか、しないでしょう。交通機関が麻痺し、大量の市民が困り、そして、怒りを覚える。そう、誰も得をしていないのが、今の状況なのです。囚人のジレンマとでもいいましょうか。

局所解から最適解に移行するためには、外部の力学が必要ではないか
この局所解から、それよりもましな、最適解に脱出するのは、自力ではムリなのではないか。自力で這い上がれるのなら、すでにそれは実現できているはず。政府の介入、もしくは企業破綻などのプロセスを通じて、最適解に強引に移行させる処置が必要なのではないかと思う。今の会社をつぶして、新しい会社を作って、そこに全ての従業員を移行させるとか。その際に、労働契約条件をより柔軟にできるようにしておく。今のこのご時世、もっと勤勉に働いてくれる人はいくらでもいると思われる。そんな法案を国会で通してしまってはどうか。

というわけで、ただいまロンドンの公共機関は、麻痺状態にあります。明日も引き続きストな日が続きそうです。おとなしく、「学習の1日」に致したいと思います。ちょうどいっか!

2009年6月10日水曜日

最後の授業~ストリームD

Stream D 最後の授業

秋、冬、夏と3つの学期にわたって、必修科目を受けてきたこのクラスStream Dも、今日で最後になりました。まさしく、Last Lecture。

つい先日、Stream Dの絆イベントが行われたかと思いきや、もうそろそろ1年が経とうとしていると思うと、陳腐な表現でしか言い表せませんが、やはりTime Fliesだなあと感じるのです。

先週末は、Admits Weekendといって、次年度のMBA入学生のWelcome Partyがあって、もう次の学年がやってくるんだと実感。

MBAが始まった頃は、ロンドンは、緑豊かな樹木が多い茂っていてなんと気持ちがいいのだろうと思ったものですが、今は、その頃の季節がまた再び訪れようとしています。そうか、やはり1年弱が経とうとしているのだなあと、これまた実感。

これからは、選択科目のみとなって、クラスメンバーは、各自の嗜好、キャリアに応じて、時間割を作っていくことになります。

サマーインターンを長くやりたい人は、秋学期には、ほとんど授業を取らないし、早く卒業したい人は、夏休み中や、秋学期に集中して授業を取ったり、それはもう人それぞれ。選択科目は最小限にして、パートタイムで働く人もいます。

それから、学年の1/3、およそ100人強ほどは、Exchange Programmeで、USや欧州、アジアなどの海外のBusiness Schoolに一学期行きます-我が家は、おとなしくLondonに残る予定。

そんなわけで、2年生からは、飛躍的に時間の自由度が高まるのが、MBAの特徴。選択科目になると、自分の関心に合わせて取っていくことになるので、クラスがさらにぐっと、エキサイティングになりそうで、楽しみです。

さあ、その前に、今は、試験とレポートをこなしていく日々。これこそ、学生生活?

2009年6月9日火曜日

英国女王エリザベス二世;息子の保育園に来たる

うちの子が通う保育園に、なぜか、なんと!英国のQueen、Elizabeth II が訪れました。そうなんです、あのQueenです。

日本でいえば、天皇がふらっと子供の通う保育園に訪れたということなんで、にわかに信じられないのですが、いやいや、なんとも不思議なものです。いまだに、なぜ訪れたのか分かりません。

この保育園というか学校は、じつは、イギリス初の保育園らしく!、なんと250年の歴史があるとか。その250周年を祝福するイベントが開催され、そのイベントに、Queenが参加した、ということらしいのです。

10年に一度の割合で訪問しているらしいのですが、現地の人もその本当の理由はよく分かっていないようです(^^) まあ、いいではないですか。

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Webに転がっているオモシロ教育ツール

ウェブ上にあるちょっとしたお遊びを紹介します。どれも、クラスで紹介されたもの。ちょっとした息抜きにいいかも。

1.FedのChairバーナンキを体感!

金利を上げたり下げたりは、バーナンキ理事長の大事な役割。そんなFedのChairをお手軽に体験できるのがこちら。失業率とインフレをみながら、金利を決めるというゲーム。

Fed Chairman Game



2.線形回帰の最小二乗法の意味、分かりますか?

なんとあの、最小二乗法を「見える化」したもの。二乗するという数式演算を正方形に見立てて、図示化したのが秀逸。

Visual Least Sqaure



きっと、他にも色々とウェブ上にあるのでしょう。どなたか面白いモノをご存じでしたら教えてください。

最近の教室は、ウェブとつながっているので、こうしたオープンなナレッジもどんどん、授業の素材として使えるようになってきました。使いようによっては、教育効果を大いに高めるのに一役買っています。ある意味で、「知の展開」です。

2009年6月7日日曜日

Oblique Goal Setting;グーグルの新しいマネジメント手法

グーグルはみなさん、ご存じの通り、新しいマネジメントスタイルをもった会社として有名です。その名も、Oblique Goal Settingというもの。Obliqueは、「遠回しの」といった意味合いで使われています。要は、利益向上といった極めてダイレクトな目標設定をするのではなく、社会貢献を第一義的な目標として設定することを指します。

じつは、最近のManagement領域での研究成果によると、こうしたOblique Goal Settingをする会社の方が、平均的にOutperformしていることが分かってきています。日本のことわざで言えば、「急がば回れ」というやつでしょうか。直接的に利益を訴求するより、遠回りなゴール設定をして方が、結果的に儲かるという、逆説的な現象が観察されているわけです。

Marketing Club主催のイベントで、Googleのマーケターがゲストスピーカーとして、話しをしにきたとき、彼の話しを聞いて、GoogleはOblique Goal Settingを徹底的に実践しているんだと実感したのです。

グーグルは、ミッションに沿った取り組みであれば、まず実践する。そして、それで、世界中の人々に気に入られたなら、その次にじゃあ、それをそうやってお金儲けに変えるかを考える変った手順を採用しているわけです。通常の会社であれば、初っぱなから、これは儲かるのかどうか、そこをまずビジネスプランとして要求されますが、グーグルは全くもって、違う次元の考え方に依拠してきていることが分かります。

グーグルのホームページによれば、グーグルのミッションとは:

Google's mission is to organize the world's information and make it universally accessible and useful.

すなわち、これに即したプロジェクトであれば、”Go”となる。サントリーの企業文化ではないですが、「まずはやってみなはれ」なわけです。

その産物として、出てきたのが、Google Earthや、Google StreetView(これもスゴイ!)などなど。ゲストスピーカーが少し紹介していたのが、次の素晴らしいサービスです。はい、今の時点で、全くお金になっていません。


Discover Ancient Rome in Google Earth

あたかも古代ローマにいるかのような旅ができるという。誰もが一度は夢あこがれた旅が、体験できる超スグレモノ。




Masterpieces of the Prado Museum in Google Earth

あのスペインはマドリッドにあるプラド美術館の絵画があり得ないくらいの高解像度でみられるというもの。これは衝撃的!



なんでこんなプロジェクトをやったかというと、あるグーグルの社員が、プラド美術館の絵画が大好きで、きっとみんなも楽しめると思ったから、以上!

まずは、顧客に受け入れられるサービスをLaunchして、そのあとにお金儲けについて考えるわけです。たとえば、Google Mapは当初は、全くお金につながらないサービスでしたが、最近は、地図の下部にさりげなく、広告を入れ始める実験をしているそうです。

現段階のGoogleは、徹底したOblique Goal Settingな手法を取り入れたマネジメントを実践しているといえます。しかし、物事は何事もバランス。組織行動的には、あまりOblique Goal Settingに傾斜するのも、これからのGoogleの成長を考えるとキケンという見方もできます。実際、最近は無料のサービスをキッていますしね。この点については、またいずれ触れます。

Marketing Club

Marketing Club主催のイベントに参加。Marketing Clubは、マメに秀逸なイベントを企画していると思います。

先日は、Professor Danによる「いかに魅力的なCommercial Web Siteを創るか」と題して、心理学的に重要な6つの法則が紹介されました。じつはアマゾンのウェブサイトは、この6つの法則を巧み使っている希有なサイトとのこと。様々なヒントがAmazon.comには隠されているわけです。

たとえば、そのひとつが「Social Proof」と言われるモノ。最近、Amazonのサイトにいくと、「このページを見た人の91%はこの商品を買いました」と出ますが、まさにこれは「Social Proof」、すなわちみんながそうしているから自分もそうしたいという人間の心理を巧みに利用している。91%という高い数値というのがキモ。

来週の月曜日は、Professor Kumarがランチの時間を使って、プライベートレーベルについて、解説をします。これもまた、Marketing Club主催。

じつは、今、流通/小売り業界では、プライベートレーベルは極めて、ホットなトピックです。日本でも見られる現象ですが、巨大流通、たとえば、セブンイレブンなどは、みな次々とプライベートブランドを立ち上げています。

それも、ナショナルブランドよりより低価格で提供しています。とはいえ、そのプライベートブランドをウラで作っているのは、ネスレであったり、ハウス食品などといったナショナルブランドを作っている人達でもあるわけで、メーカーにとってみれば、自分たちの競合を自ら作り出しているというなかなか複雑な事情になっているわけです。

どのようなインプリケーションが聞けるのか、このイベントも楽しみです。

2009年6月2日火曜日

キャリア・チェンジ;MBAの活用事例

LBSのMBA Programmeになぜ皆学びにくるのでしょうか?少し統計をみてみると:

第一位. キャリアチェンジ
第二位. ビジネススキルの強化
第三位. 国際性の獲得


そう、キャリアチェンジを目的にMBAを取ろうという人がとても多い。たとえば、今まで建築の設計をやっていたけど、よりビジネス的なことをやりたいとか、今まで事業会社に勤めていたけど、よりFinance的なことをやりたいとこ、それはヒト様々ですが、職業を変えるためのひとつの手段として、LBSに来る人が多いようです。

さて、そのキャリアチェンジに、どうMBAが役に立つのか、そのあたりのリアリティは意外と日本では伝わっていないように思うので、このあたりについて、少し書いてみたいと思います。

たとえば、私の友人A(ラテン系)は、もともと、オペレーション系のコンサルタントをやっていましたが、不動産系のPE業界に行きたいという想いを募らせて、30歳でLondon Business Schoolに入学。

人的ネットワーク;秋に学校が始まるや否や、学校のDirectory(名簿)を使って、片っ端からアポを入れて、毎日のようにその業界のヒトに会っていました。まさに人脈作りです。行きたい業界のフォーカスが絞れているので、自ずと対象となる企業も絞られ、その分、深くネットワークを構築。 関係ありそうな名前を言えば、「あああの人ね」という感じで、大体業界を知り尽くしている感じ。

スキル;とにかく、ファイナンス系の科目には力を入れると本人も言っていて、実際そうしています。ファイナンス系の科目だと、発言をよくしていますが、その他の科目になると、授業はあまり聞かず、FTを読んでいることもしばしば(笑)。授業に来ないこともしばしば。また、Excel関連のモデリングのオプショナルな講座や、不動産関連のオプショナル授業もすべて出ています。また、不動産が強いUSトップスクールへの交換留学も決定し、そこでいくつか不動産ファイナンスの科目をとるということで意気揚々。

サマーインターン;彼の場合、コンサルタントから、PEへの転職ということで、じつはやや距離感があって、難易度が高いのですが、この不況下でも、見事に、ある投資銀行の不動産PEのポジションで、サマーインターンを獲得しました。通常、「職種」「場所」「言語」すべてを変えるのは危険と、言われますが、彼の場合、この3つをすべて変えるわけでにも関わらず、見事にクリア!

クラブ活動;不動産クラブの重要なポジションに就いて、クラブを色々と盛り上げています。彼が、学校にReal Estateの科目を置いてくれと学校側に嘆願する会議にたまたま私も居合わせていたのですが、それはそれはConvincingな議論を組んでいました。結果的に、来年度の選択科目はすべて決定していて選択科目一覧も刷り上がっていたのにも関わらず、学校側も急遽Real Estateの選択科目を増やすことになったのです。

彼の場合、フォーカスがきわめてはっきりしている分、極めて上手に、そして実践的にLBSのリソースを引き出していることを感じます。彼、曰く、

“LBSは自分が望んでいたことをすべて与えてくれているんだ”

2009年6月1日月曜日

金融危機の真犯人を育んだMBAの罪?

日経オンラインの記事
金融危機の真犯人を育んだMBAの罪

HBS (Harvard Business School)の卒業生による、今のビジネススクールに対する批判的なメッセージ。この不況を招いた金融危機の真犯人を育んだのはMBA教育にあると主張しています。さらに、そうした金融危機を事前に防げなかったMBAの批を説いています。

MBAって、そんなタイソウなものだっけ?

もちろん、MBAは、個人にとっては、それこそ忘れられない時を刻一刻と過ごす、貴重な経験になると思いますが、しかし、このMBA教育が多大な影響を及ぼして、この金融危機の主犯人を育んだというのは、やや行き過ぎていまいか、と思うのは私が現役MBA生だからでしょうか。 個人の成長という機会と、金融危機のこの2つがどうも私にはまだ結びついて理解できないようです。

そもそも、MBA教育が金融危機をもたらしたのでしょうか?
今の金融危機による不況は、経済から始まって以来何度も、経験しているビジネスサイクルのひとつなのではないでそうか。

いつだって、不況はやってきて、その後景気に浮かれて、気付いてみたらバブル崩壊というビジネスサイクルは、人間の性ともいうべきものでしょう。何百年と続いている経済活動の根源的なサイクルの中でおきたのが今回の金融危機だと考えると、MBA教育の影響はとても小さく感じられます。

それでは、金融危機を阻止するのがビジネススクールの役割でしょうか?
ここは、AKさんも指摘しているとおり、“ビジネススクールに過度に期待しているような気もする”と云えるでしょう。もちろん、MBA教育で今後は金融危機などの危険性、Ethicsに対する見識などの教育はするにしても、あくまでも、MBA教育は、リーダーやマネジャーを“支援”するのがその本来のミッションです。

たとえば、マイクロソフトのWordは、ドキュメンテーションを“支援”してくれる有用な手段です。しかし、だからといって、仮に、作成した文書に間違いがあったとしたら、Wordが悪いのでしょうか?Wordはその間違いを防ぐ責務を負っていたかというと、少し疑問符。 もちろん間違いを防ぐことを志向することには異論はありません。

それから、そもそも、MBA教育の影響を過大視していないでしょうか?
MBA教育は、20代において、たかだか1年や2年の経験です。ビジネスパーソンとして、数十年働く中での1,2年です。MBA教育を軽視しているのではないですが、そのインパクトの大きさについては、冷静に、客観的に評価する必要があると思います。これは、MBAを取得した少数のトップエリートが不祥事を働いたので、そのわずかな事例から全体を推測しているという推論の過ちを行っているような気がするのです。

しかし、一方で、日経オンラインの論文が指摘しているように、MBAの価値を再考することには大いに賛成です。しかし、その場合でも、

今後はMBA教育が金融危機を引き起こさないためにはどうしたらよいか?

という問いからスタートすると、ハナシがおかしくなるような気がします。問いは、謙虚に原点に返り、より広く

リーダーになるためには、もしくは、リーダーシップの発揮を効果的に“支援”するためには、どのような場作りが必要なのだろうか

だと思います。

リーダーたるには、だれに、いつ、どのように、何を教育するのが効果的なのか。たとえば、MBA生の若年傾向があるけれど、教育する時期は適切なのか。この中に倫理的な教育の位置づけも問われるかもしれません。古典などの教養教育も含まれてくるかも知れません。また、Web2.0のようなテクノロジーの活用なども含まれるでしょう。環境の変化に応じて、柔軟に進化し続けなければいけないのは、ビジネスでも、ビジネススクールでも変わりはありません。