2009年6月14日日曜日

書評 プライベートレーベル戦略

最近、小売りの自社ブランドが増えたと思いませんか?たとえば、セブンイレブンに行けば、お菓子からはじまり、アイスクリーム、調味料、日用用品にまで、ありとあらゆる商品がセブンイレブンまたは、セブン&アイのロゴが入ったプライベートレーベル品を見かけるはずです。小売りの商品の中で一大カテゴリーを占めるようになったプライベートレーベルを論じた一冊がこれ。

昨今の巨大小売りのプライベートレーベルに翻弄されているメーカーにとって、またはプライベートレーベルをより進化させたいと考えている小売りにとって、極めて有益な本ではないかと思います。



プライベートレーベルのデカさについて語った上で、小売りのプライベートレーベル戦略、およびそれに対抗するためのメーカーのとるべき方向性について論じている本です。先日、著者であるNirmalya Kumar教授の小一時間のセミナーに気軽に参加したところ、すこぶる示唆深かったので、思わず本を買った次第。

プライベートレーベルの大きさ
業界の人には常識になっている観もありますが、まずは、そのプライベートレーベルのデカさについて、こんな単純な、でも切れ味の鋭いスライドでガツんと示されます。




その1:世界一のメーカーは、ネスレでもP&Gでもなく、ウォルマートである
その2:トップの小売り企業のプライベートブランドは、売上げはハンパなく大きい
その3:小売り企業の売上げに占めるプライベートブランド比率もこれまた、デカい

驚くなかれ、教授によれば、P&Gの売上げの16%、ケロッグの14%の売上げはWalmart1社に支えられているのです。

小売りのプライベートレーベル戦略
「自社ブランドって、メーカーの廉価版でしょ」
この認識は、大間違いで、世界のトップリテーラーは、メーカーよりもしたたかにマーケティングを展開しているというのがメッセージ。

たとえば、イギリスでは優良企業でしばしば挙げられることのある、小売り企業テスコ。あなたがテスコに行って、オレンジジュースを買うと想定しよう。あなたは、こういう商品に出会うことになる。

1リットル0.33ポンド Tesco Value(超安いオレンジジュース)
1リットル0.95ポンド Tesco Organic (メーカーと同等、でも安い)
1リットル1.62ポンド Tropicana (メーカー品)
1リットル 1.68ポンド Minute Maid (メーカー品)
1リットル 1.84 ポンド Tesco Finest (メーカー品よりもっと高品質高価格)

何が起きているでしょうか?

メーカー品が、見事に挟み撃ちにされているのです。

もちろん、テスコはメーカーの廉価版も作っているけど、メーカーと同等だけど価格が安い商品、さらには、メーカーよりもうんとプレミアムを乗っけた超デラックス商品にまで手を広げているわけです。

一方で、メーカ-はそうはいっても、テスコの購入額はばかでかいので、テスコの意向は無視できないというジレンマに陥っているのが見て取れます。

「マーケッターになりたいんだったら、P&Gじゃない、いまやリテールに行っても、面白いことがたくさんできるよ」(Nirmalya Kumar教授)

メーカーの戦略
この書籍で書かれているのは、基本的に次の3つ。


1.Fight Selectively; 商品を絞れ
2.Partner Retailers Efficiently;上手にリテーラーと付き合え
3.Innovation;やっぱり商品のイノベーションをしないとダメ

と書くと、当たり前に聞こえるので、この提言の真価は、その細部にあります。たとえば、1.について。

ドイツのマーケットで、1999年から2003年にかけて、Consumer Goodsのシェアがどのように推移していったか調査されています。これまた、衝撃的。以下、1999年→2003年のシェアという見方。

業界一位二位の商品 23.5%→21.9%
業界三位以下の商品 28.2%→22.2%
プライベートレーベル 23.4%→32.1%
プレミアム商品 11.8%→11.9%

まず、驚くのは、このわずか4年で、プライベートレーベルの浸透率の急増ぶりでしょう。そして、これがメーカーに多くの示唆をわれわれに与えてくれています。

  • プレミアム化しろ
  • シェアNo.1、No.2になれ
  • それ以下のシェアならば、利益を小売りに渡す(大幅値引き)覚悟でやれ
  • それができないならばブランド毎きれ

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まだ日本語に訳されていないようですが、マーケターは必読の書でしょう。

日本ではまだ出版されてないけど、面白い洋書や論文はいくらでもあり、今後、このブログでも、気の向くままに、自分の備忘録のためにも、そうした文献を取り上げてみようと思います。

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