2009年4月13日月曜日

ビジネス定量分析の「罠」

ロンドンビジネススクールにも、ビジネス定量分析のクラスはたくさんあります。私が受けている必修科目では、Decision Risk Analysisがあります。定量的なモデルにもとづいて、意志決定をすることを学ぶクラスです。

この授業は、昨年担当したProfessor Bertに比べると、若干迫力とおもしろみが欠けると言われているものの、今年のMBA生の中でも比較的人気のある授業のひとつでした。

実際、クラスでは、エクセルと@Riskという比較的手軽なソフトウェアを使い、まるで、手品のタネ明かしを見ているような軽快なノリで、定量モデルの結果を使いながら、見事なまでに最適な意志決定をしていく様を垣間見ることができるのです。

教授も統計モデリングの研究者ですから、定量分析を心より愛しているわけで、定量モデルに基づく意志決定の切れ味の鋭さを、これでもか!というくらい、次から次へと見せてくれます。

しかし、ここに落とし穴があると思うのです。その昔は、統計解析を研究していた私が言うのもヘンなのですが、定量モデルを過信すぎてはいないか?ということです。定量分析は鋭いナイフなみたいなものですから、その分析を間違って使えばひどいケガをしてしまう負の側面を見落としていないか?と思うわけです。

定量モデルを精緻に作り上げて、その結果に基づいて意志決定するのではなく、リーダーであるならば、自らの仮説を検証するために、あくまでも「補助的に」定量モデルおよび分析を併用するのがいいと思います。

定量分析の罠1:思考停止化
定量分析などという高度なことをやっていそうで、じつは定量分析にハマルと思考停止に陥るというパラドックス。定量モデルの作り込みに凝り出すと、定量モデルの内部でどのような計算をしているのか、などをあまり構わなくなってしまうのです。

分析の過程で、どんどんとモデルを複雑にしていき、しまいには、モデルがブラックボックス化してしまい、ただその定量モデルの結果を鵜呑みにしてしまう症候群。また、構築した定量モデルの前提条件なども何も分からなくなってしまうこともしばしばです。

まさにサブプライムローン問題のひとつの象徴でもあります。複雑な数理モデルによって計算された各種金融商品の中身を一体だれが理解していたでしょうか?

定量分析の罠2:定量化しにくいところは見ない
定量モデルを構築しはじめると、定量的に取り扱いにくい領域には、次第に目をそらすようになるものです。定量モデル構築者にとって、そんなものほど見たくないものはありません。

もしかしたら、このバイアスが、リーダーもしくはマネージャーにとって、本質的な事象から目をそらさせてしまうかもしれません。

実際、教材として取り上げられている例は、すべて架空のお話か、きわめて現実を単純化したケースです。まさに企業が直面しているマネジメントディシジョンにおいて、定量モデルが具体的にどのような役割を担うのか、そこに一歩も二歩も踏み込む必要があると思います。

たとえば、企業のバリュエーションでは、大抵の場合、詳細な計算をする前に、だいたいの“落としどころ”を見極めるのが普通です。その落としどころに定量モデルの結果が確実に落ちるよう、ガラス細工を操るがごとく、様々な前提条件の整合性をとっていくのが実態であったりします。

では、その落としどころをどう決めるのか?じつは、実務で最も肝心なポイントは、MBAの授業ではカバ-されません。ここにひとつの定量分析教育の危うさを感じずにはいられません。
それも、そのはずで、定量モデル分析の結果から企業のバリュエーションが定まるという前提に立っている以上、定量分析前の落としどころなどという概念は、定量分析の世界ではあり得ないわけです。

結局どうすればいいのか?

上記の罠については、しつこく警告を出すと共に、定量分析するにあたっては常に、言葉で説明すると一体どういうことをやろうとしているのかを常に意識することだと思います。最終的には、企業現場のミーティングでは、「言語」でやり取りをするわけですから、複雑な定量モデルを持ち出すのではなく、言葉としてその意味するところを語る必要があるのではないかと思うのです。

逆説的ではありますが、定量分析を使いこなすためには、まずもって現象を観察し、そこから直接的にインプリケーションを導出する「定性」分析が大事!ということになります。

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