2008年12月1日月曜日

改めて思うこと:企業は変えられるという事実

Strategyのクラスでは、さまざまな業界や企業の変革のケースを扱うのですが、こうしたケースをじっくりと学んでみると、改めて、企業は変えられるという単純な事実を認識させられます。

私たちは、多くの「慣性」にのっかって、日々の延長線上で考え、仕事を回しがち。こうした惰性を、Organizational Inertia(組織の慣性、うまい訳が見つかりません)と呼ぶようですが、私はこの概念けっこう好きです。なぜなら、いろんな企業のコンサルティングを通して、まさにこうしたOrganizational Inertiaを歯がゆくみてきて、それらを上手に整理してくれているからです。

Strategyのクラスではこんな風にOrganizational Inertiaを整理してくれました。
構造的な慣性
 ・組織が複雑/硬直化して変えられない
 ・すでに投資してしまったからもう変えられない
心理的な慣性
 ・こういうもんだという思い込みから変えることができない-メンタル・ブロック
 ・行き過ぎたコミットメントが邪魔して変えることができない

こうしたOrganizational Inertiaが企業の変革を邪魔するわけです。しかし、一方で、変革に成功する企業を勉強することで、Organizational Inertiaに抗して、企業を変えることができるんだと、思えるのは実にうれしいことです。過去のコンサルティングの中でも、「やはりこの企業は変ることができないのか」と悲観的になったこともありますが、そう思う必要はない!というメッセージですから、勇気づけられます。

企業変革事例その1 スイスの時計産業
この事例は驚愕です。企業を変えた、というよりは、産業そのものを変えてしまったのですから。Organizational Inertiaというよりは、もっと大きな慣性、Industrial Inertiaというべきか。

スイスの時計産業は、高級時計セグメントとして、一躍時計産業の頂点に君臨しますが、日本勢・香港勢の安価で性能のよい時計の出現によって、スイスの時計産業は、危機に瀕するわけです。変化に対応するといっても、それはそれは難しく、スイスの時計産業は、時計職人の小さな個人商店の集まりとそれらを束ねる幾重にも成る組合からなっていたのでした。
しかし、スイスのコンサルティング会社とこの状況を憂うスイスの銀行によって、産業としてこうあるべきという青図に向けて、一気呵成にバラバラの産業を統合化し、強力な中央集権的な企業を創り出したのです。この成果が、スイスの時計産業を救うことになる「Swatch」なわけです。あらゆる生産ラインを一元化し、いらない工場はたたみ、複数あった組合は統合させてひとつの企業とし、デザインはすべてイタリアのトップデザイナーにアウトソースし、というように、産業構造自体を変えてしまったのです。想像を絶することを次々とやり遂げたのだと思います。

企業のレベルで物事を、変えられないといっているのは「まだまだ甘い」。そんな風にも聞こえてくるケースです。

企業変革事例その2 オーティコン:デンマークの補聴器メーカー
これは、企業文化を根本的に、変えてしまった事例。企業文化は、企業のDNAのようなもので、変えられないという先入観を覆すのにはうってつけのケースです。

デンマークの補聴器メーカー、オーティコンは、もともと技術志向の会社で、その先端的な技術によって一躍補聴器のトップ企業に躍り出るものの、これまた、海外勢であるソニーやシーメンス(ドイツ)の攻勢によって、危機に瀕するわけです。さらに、オーティコンの問題だったのは、そのきわめて官僚的な組織カルチャーのおかげで、にっちもさっちも身動きがとれない状況にありました。技術志向が強く、顧客をみない、その上、官僚的。日本企業でもよく聞く話です。

再生請負CEOのKolindは、まずは、マーケティング機能の強化、業務の効率化、などなど今の表出する問題点をつぶしにかかります。それはそれで、すぐ成果が現れ、めでたしめでたし。

ところが、Kolindが素晴らしいのは、この回復は、一過性のモノであると認識していたことです。危機に瀕したときは、とりあえずそこそこ外れない打ち手を打てば、業績は回復するもの。しかし、それが定常的に続く仕組みを作るのが難しいことを指摘しました。

Kolindは、組織文化を抜本的に変えるために、組織、部署というものを一切なくしてしまったのです。すべて、プロジェクトベース。だれがプロジェクトを起案してもいい。プロジェクトを起案したヒトは自分で人材を集め、チームをつくり、成果を出す。Kolindは、これを、スパゲティ組織と呼びました。官僚的な組織の全く正反対の組織形態に大きく、振り子を振ったわけです。

さすがにあまりにも混沌としたために、そのあと、もう少しいわゆる、伝統的な組織に戻します。しかし、戻したとしても、昔に比べれば全然、ましなわけで、オーティコンは今でもイノベーティブな製品を出す企業として、活躍をし続けています。徐々に変えるのではなく、一気に行き過ぎなほど変えてみる、そんな手法をKolindはとり、抜本的に組織文化自体を変えることに成功しました。

面白いケースたちです。

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