2008年9月8日月曜日

Hondaから学ぶ「視座」

初めてのケースは、我らがHondaでした。ご多分に漏れず、LBSでもケース・メソッドが多分に採用されています。ケース・メソッドの詳しい解説は、たとえば、次のリンクに譲るとして、要は、実際の企業経営の実際が書かれた「ケース」を読んで、自分がマネージャー・経営者だったらどのような意志決定を下すかを訓練する方式のことです。
http://www.bookpark.ne.jp/kbs/about_kbs01.asp


私は、ケースを題材に教壇に立って教えていた立場でもあるので、こちらの教授陣がどのように教えるのかとても興味があるのです。ケース・メソッドでは、教えてしまっては講師の負けで、いかに学生に何かを気づかせるか、これが鍵です。こちらの教授陣が、どのように気づきを促すのか、そんな点も思う存分学んでいきたいと思っています。


さて、このケースですが、Hondには見えないマーケットを見る先見性が必要なのだと気づかされます。aの見事なまでなアメリカ戦略が描かれているのです。Boston Consulting Groupによる経験曲線理論を踏まえて、Hondaがコスト優位戦略を実行し、瞬く間にアメリカ市場を席巻していく様子が書かれています。おお、さすが我らがHonda!さすが、本田宗一郎、と思うわけです。


また、小型軽量なバイクを投入することによって未開拓なマーケットを一気に切り開いていく様子を描かれています。当時、バイクといえば、ハーレーダビッドソンのような一部のマニアの遊び道具でしたが、本田は、日常の足としてのバイクという新しい商品ジャンルを開拓して、今までになかったマーケットを一気に創り出してしまったのです。おお、やはり、経営者は、見えないマーケットをみる先見性が必要なのだと気づかされるわけです。


講師は、なぜ本田は米国で成功したのか?、本田宗一郎はどんな人なのか?といった問いかけながら、クラスディスカッションは軽快にすすみ、Hondaの見事なまでの戦略的整合性にクラス一同感心するのでした。そして、90分終了。


第二幕は、Honda(B)というケースが配られました。これが面白い。そう、今まで読んでいたのは、Honda(A)というケースでした。Honda(B)は、本田の内部でどんなことが起きていたのか詳細に記述されているのです。Honda(A)はどちらかというと、外から見ての「分析」結果。それに対して、(B)は、人間的な葛藤なども含めて書いてあるのです。


たとえば、米国本田の社長を務めた川島氏のインタビューが載っているのですが、こんな感じです。「正直に言うと、アメリカでものを売る、という意外に戦略らしい戦略は全くありませんでした・・・我々は目標利益の話や、損益分岐する起源などは一切話ませんでした。」


は?


さっき議論していた、見事なまでな先見性ってなんだったの?


さらに、実は米国市場への参入は失敗続きで、商品の欠陥は露呈するは、商品を売るタイミングを間違えたりと踏んだり蹴ったりだった様子が描写されます。当然、アメリカでは、小型のバイクなどは売れないと思っていたらしい。しかし、大型バイクの欠陥が露呈するにつけ、しょうがなく小型バイクを投入せざるを得なかったのです。


そうしたら、ブレイクし出した。売れないと思っていた小型バイクが、さきほど書いた膨大なマーケットを開拓していったのです。


そして、教授は質問する。「Hondaは何で成功したの?」


***


じつは、美しく解説してある戦略なんていうのは、後講釈であって、本当は生々しくてどろどろしたものであることを気づかせてくれるケースだと思います。


また、我々は、与えられた情報で、いとも簡単にひとつの世界観を作り上げてしまうものだなと気づかされます。Honda(A)と(B)は同じ現象を違った角度から見ているだけに過ぎないのですが、恐ろしいまでに我々の頭の中に作り上げられるイメージが違うわけです。


要は、自分がどの「視点」「視座」「視野」から物事を見ているのか、常に認識すべきであると、肝に銘じたいと思います。


初めてのこちらでのケース・スタディはとても面白く、ためになるものでした。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

若杉さん  香港の大塚です。

本田の話し面白いですね。 話の作り方で見た目の美しい戦略論が、視点を変えて実務担当者たちが経験した経緯を内側から見ると、全く異質のものにみえる。

RTOCS が所謂戦略論から展開されることなく、経営者の実務担当者の葛藤する「今」という視点からの発想を重視して展開する手法である理由が、まさに若杉さんがHONDAの事例で書かれていることだなと、改めて認識しました。

留学の成果、ますますこれから充実しそうですね。ご活躍お祈りします。

香港 大塚

twk さんのコメント...

大塚さん

こんにちは、コメントありがとうございます!戦略論を学ぶということと、「今」を判断する力を磨くことは違うことなのだと改めて認識しました。またお会いできる日を楽しみにしています。