コンサルティングをするとき、クライアントの期待値をコントロールするのが難しい時期が何カ所かあります。そのひとつは、コンサルティングを開始した直後から数週間ほど。なぜでしょうか?
クライアントはすぐに成果物を求める傾向にあるのに対して、既成商品をもたないわれわれとしては、その期待にはすぐには応えられないことになるからです。
プロジェクトの開始時期には、クライアント側には独特の雰囲気が醸成されているのが普通です。何かすぐに魔法の杖を出してくれるに違いないと思うクライアントとの期待。また、社内に大旋風を起こしてくれるのではないかという期待。社長直轄プロジェクトチームを編成して、プロジェクトチームメンバーの高揚感。
それに対して、われわれサイドは、プロジェクト開始時期、それとあわせて、いくつかのクイックヒットの提案、ワークショップの実施、社内クイックサーベイなどの共有などいくつかのアクションを取っていきます。また、プロジェクト初期の仮説構築が欠かせません。
とはいえ、この期待値ギャップには、もっと本質的な理由があることにあるとき気付かされました。
あるプロジェクトで、上司がこの理由を、クライアントに見事に説明したのが今でも印象的です。
リストラクチャリングのプロジェクトで、組織のサイズを四分の三にせざるを得ないという、トピックがトピックだけに、クライアントの従業員とは緊張感が走るプロジェクトでした。社長からは、この難題に取り組む割には、プロジェクトチームはちょっと静かすぎやしないか、とのお言葉。まさに、先の期待値ギャップが露呈した格好です。
この問いに対して、その上司は、ある組織行動のフレームワークを使ってその理由を説明したのです。そのフレームワークとは、Tuckman Model チーミングの5つのステージと言われるもので、ここロンドンビジネススクールの授業で再会を果たし、昔の旧友にあったかのような気持ちになったのでした。
このModelの5つのステージとは:
Forming(まずはチームの形成が大事)
Storming(変革を起こす)
Norming(新しい状態への定着化がおきる)
Performing(新しい状態で業績を出しはじめる)
Adjourning(ラップアップ)
“プロジェクトの成功には、チームのフォーミングの時期が必要。今はその時期なのだ。大きなStormingを起こすためには、欠かせない準備期間だ。”
まさにそのとおりで、コンサルタントと、クライアントとのメンバーとの結束というか、一体感がないまま、見切り発車したところで、途中でコンフリクトが大きくなってしまうだけ。期待値ギャップの本質的なところでは、チーム形成がまだできていない、と思うのです。そういった意味で、継続プロジェクトの場合は、この手の問題は経験しなくて済みます。すでに一度プロジェクトをやったことがあるわけで、お互い勝手が知れています。
さて、このきわめて重要なチーム形成の時期の典型的な失敗として、次の二つが指摘されています。
1.信頼感の不在
「時間を無駄にしない」という理由で、プロジェクトメンバー間の信頼感を築けないまま,ガンガンと、プロジェクトを見切り発車させてしまう失敗。
2.不明確な役割分担
“Formal roles are prescribed to members and are critical to the effective organization and potential effectiveness of a team” (Marbry and Barnes, 1980)
こうした課題を克服し、各メンバーのコミットメントを獲得するのが、このプロジェクトチーム運営の最初の目標、というのが理論です。
実際の、コンサルティングプロジェクトでは、チームチャーター(憲章)という形で、(われわれではなく)クライントチーム自ら、チームのゴール、マイルストン、役割分担、スケジュール、タスクなどをA4一枚にまとめてもらい、経営陣に発表してもらうこともあります。コミットメントの確立です。
このTuckman Modelの5つのフェーズをみると、リストラクチャリングプロジェクトを思い出すと同時に、クラインアントの期待値コントロールについて考えさせられます。思い出深いフレームワークのひとつです。
2009年5月16日土曜日
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