2008年12月23日火曜日

エース社員ほど失脚する

エース社員ほど失脚してしまう。このテーマは、いくつもの視点でビジネス・スクールの教授陣によって研究されてきたようです。

Global Leadership Assessment for Managersのクラスで教授がさりげなく触れた次の詞は、じつにマネージャーが成長するに伴ってぶつかるその「壁」を象徴的に表していると思います。

Help! THE BEATLES

Help! I need somebody
Help! Not just anybody
Help! You know I need someone
Help!

When I was younger so much younger than today
I never needed anybody's help in any way
But now these days are gone
I'm not so self assured
Now I find I've changed my mind
I've opened up the doors

(Lennon-McCartney), © 1965 Northern Songs Ltd.

じつに示唆深い詩ではありませんか。

アナリスト時代であれば、一人で仕事をやりきることができるし、駆け出しのマネージャーであったとしても、問題が起きれば、自分がその問題に自ら手を下して、部下の失敗をリカバーすることができるものの、さらにマネージャー・リーダーとして成長するには、じつは「周り」からの「助け」を上手にマネジメントする必要があり、今までとは全く違うスキル・能力が求められ、そこに成長の「苦しみ」があるというわけです。

エース社員ほど失脚してしまう。

そもそも、なぜ、このようなジレンマが発生してしまうのか?これに関しては、いくつかのファインディングスがすでにありますので、少し書いておきたいと思います。

そのひとつの理由は、昇進は、「過去の」パフォーマンスによりドライブされるから、というもの。たとえば、優秀なアナリスト社員が、ハイパフォームしていたのなら、それを当然、きちんと評価し報いなければなりません。その報い方が昇進なわけです。この場合、昇進後のスキルセットが十分かどうか、その検証が不十分なまま、昇進が決定される「傾向」があるというわけです。そして、もし、昇進させなければ、そのエース社員は会社を去ってしまうかも知れないリスクがあり、会社としても、昇進を決定します。

しかし、アナリスト、マネージャー、リーダーへと、成長そして昇進するにしたがって、求められるスキルは、予想以上に劇的に変ってきます。冒頭に書いたように、他人から助けを借りなければならない、さらには、自分より専門性をもっている人をマネジメントしなければならない、といったように、上へいけばいくほど、違った能力が求められるわけです。じつは、昇進は、未来志向なのに対して、人事評価は過去に依存するモノ。ここにギャップが発生してしまう。

悪いことに、エース若手社員であれば、あるほど、自分で問題を解決できてしまうので、周りの力を上手に借りる術を知らないままにマネージャーになってしまい、いつまでも手取り足取りと指示をするといった、マイクロマネジメントを続けてしまうケースも多いということになります。

この典型例を、”Wolfgang Keller at Konigsbrau-Hellas”でもクラス内で議論をしました。Harvard Business Schoolを卒業したエリートKellerは、とんとん拍子に昇進するものの、本社役員になるところで、壁にぶつかってしまうと言うケース。本社役員クラス一歩手前くらいのクラスになると、そもそも個別問題に自らが首を突っ込んで解決すべきではないのに、どうしてもその「クセ」から抜け出せず、その課題に本人はまだ気づいていないのが舞台設定。

Kellerの後日談では、自らのマネジメントスタイルを見直し、変えていく努力をすることで、めでたくさらに上に上り詰めることができたというハッピーストーリーなのですが、そうでなければ、そうしたマネージャーは転職の道を選ぶわけです。

しかし、実際は、転職したとしても、そもそもの問題自体は解消されるわけではないですから、転職したからといってうまくいくはずがありません。さらには、転職先のリソースを十分に使えないですから、輪を掛けて、パフォームできないという悲惨な結末に陥るのです。リソースというのは、その社員が優秀という「評判」や、社内の人脈も含めての話しです。その社員が優秀というある種のレッテルは、じつは社内の仕事を円滑化するのに相当一役買っていると思います。

転職の繰り返しは、キャリアを傷つけることになり、これが、エース社員が失脚する顛末なのです。

若手が早い昇進を望む傾向は、世界的にもひとつの潮流であり、この流れをとめることはできません。とくに中国の血気の盛んな優秀な若手は、すぐに役員にしろ、といった要求は相応にあるようです。そして、日本においても、徐々にそうなっていくでしょう。私のいるコンサルティング業界しかりで、業界のトレンドとして、若手の優秀なスタッフは、早期に昇進させる方向に舵を切ってきています。

であるならば、それへの対応策がますます重要になってきます。企業側、さらには、個人もこの問題を常に意識しておく必要があると思います。具体的な対応策としては、私は、「教育」「メンタリング」「新たな成長モデル」の3つがあるのではないかと思います。

どんどん昇進が早くなっているとすると、経験量が不足するわけで、それらを補う形で、「教育」が今後、重要な役割をますます担ってくると思います。それは、分析といった、スキルセットの習得というのではなく、成長の「壁」に対処するための心構えだったり、アナリストからマネージャー、マネージャーからリーダーへ成長していく際の落とし穴を学んだりといったよりソフトスキルの習得に重きをおいた教育です。

もうひとつは、よきメンターもしくは、コーチを見つけることなのでしょう。これは、企業が仕組みを入れることも大事かもしれませんが、個々人が常にメンターをもつようにするというマインドセットが大事なのかも知れません。私も、今までメンターに色々と話しをしたりして、とても有意義でしたので、今後もこのメンターは大事にしたいと思います。

そして、最後は、新しい成長モデルの導入です。企業が採用している、成長モデルの多くは、階段モデルです。すなわち、アナリスト自体は、こういうスキルが必要で、さらに次のレベルにいったら、これこれのスキルを習得するというように、スキルを積み重ねていく方式が一般的です。そうすると、過去のパフォーマンス評価に基づいて昇進させると、次でコケるリスクが出てくる。

そこで、成長の考え方を、階段方式から相似形モデルへ切り替えなければいけないのではないか、というのが私の仮説です。すなわち、あるべきリーダー像なりマネージャー像を定義したのなら、その小さい版を、アナリストのあるべきスキルセットとして定義するやり方です。四角形の一辺ずつをマスターするのではなく、小さな四角形を少しずつ大きくしていきます。

コンサルティング業界でいえば、新米のコンサルタントであっても、アナリストであっても、まずは小さな課題領域について、データ収集、仮説検証、資料作成、クライアントとのミーティング設定、プレゼン、アフターフォローをすべてやってもらうという考え方です。なるべくすべてのプロセスをやってもらうように、上が意識して育てなければいけないのだと思います。アナリストであっても、提案書の作成や、次のプロジェクトを取ってくる仕事にも関わってもらう。

一方で、上の立場として、楽な仕事の任せ方は、新米コンサルタントには、情報収集だけやってもらうというやり方で、まずは、情報収集スキルという一辺を身につけてもらおうということなのかもしれませんが、個人的にはよくないと思っています。

よく「自分より1階層上、数階層上の立場を想定して仕事をやれ」と言われますが、これはまさに、より大きな「四角形」を見据えた上で仕事をすることになりますから、エース社員の失脚防止のために、個人としてできる重要なマインドセットだと思います。

エース社員ほど失脚してしまう。これは古くて新しいテーマですが、若手の昇進スピードが速まっている世の中の潮流を考えると、ますます大事なissueになると思います。私も個人として常に意識する必要があるし、会社としてもこの問題に今まで以上に注意を払う必要があると思います。

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