2008年12月23日火曜日

測定行為そのものが測定値に影響を与える功罪

ロンドンは、すっかりクリスマスづいてきました。クリスマス時期は、電車のかずも相当減り、しかも店もバタバタと閉まるので、注意しなければなりません。

忘れないうちに、1学期中で面白かったトピックを冬休み中にアップしておきたいと思っています。今日はAccountingです。

物理の不確定性原理で、ある粒子の位置を正確に測定しようとすればするほど、その測定行為そのものが、その粒子の位置を動かしてしまうという主張があります。

ビジネスも全く同様で、会計の制度そのもの、すなわち、会社の利益をどのように測定するのか、その方針そのものが、利益を動かしてしまうのです。

1学期のFinancial AccountingのIntercorporate Investmentsのクラスのときでした。普段は、比較的淡々とすすんでいたこのクラスでしたが、Fair Value-時価会計のクラスディスカッションのときは印象的でした。

今、会計の世界でホットなトピックは、「時価会計は今まさに起こっている金融危機を増幅させたのか?」というもの。

今はなきBear Stearns出身のあるクラスメイトは、「この全くおかしい会計制度のおかげで、実現してもいない損失を、毎期ごとに損益計算書に計上しなきゃいけなくて、今の金融危機の一役を担った」と語気を強めて言っていたのが印象的。

というのも、短期売買目的で保有している証券については、四半期ごとに、時価にあわせて評価しなければいけなく、かりに、ロスをだしていたとしたら、そのロス分をPLに計上しなければなりません。(逆に、ゲイン(利益)を出していたら、PLに利益を計上します。


この金融危機は、株式市場6000兆円の富をわずか半年足らずで半額3000兆円になりました。多くの金融機関は、この煽りをまさに受けまくって、莫大なロスをPLに計上しなければいけず、その結果株価の暴落を招いたというのが、上記の主張です。

助教授が言うには、本当にその考え方は正しいのか?というもの。

というのも、まず、短期売買目的の時価会計導入は、オプションとして選べたというもの。時価会計基準を導入しないという選択もできたとのことなのです。しかし、当時は株価は上昇基調、だれもがその上昇分の利益をPLに反映させたくて、”Everyone jumped to the fair price option”だとか。

それが一転、株価が急激に降下したとなれば、まさに悪夢の始まり、今の金融機関というわけです。

さらに、面白いことに、長期投資目的で株を保有していたのなら、じつは、ロス(もしくはゲイン)を出していたとしても、PL(損益計算書)にはその変化を反映させなくてもよいのです。「長期投資の目的」だからです。

多くの金融機関は、PLに株価上昇の利益を乗せたいが故に、短期売買目的として、分類したそうなのですが、ところがどっこい、最近はこんなニュースが登場しているとクラスで紹介されました。

Deutsche Bank has recorded a profit instead of a loss in its most recent results by using new accounting provisions designed to mitigate the impact of the financial crisis on European banks. Germany’s largest bank is the first big European institution to use the opportunity to avoid having to account for some of its assets at their severely impaired market value.

すなわち、今まで短期保有目的にしていた証券を長期保有にするから、もう損益計算書にロスを出さなくて済むので、もうロスを出さなくていい、というニュースです。やや節操がないポリシー転換という印象はぬぐえません。

CFOが言うには、

Changes to auditing methods allowed “a more proper treatment” of the bank’s assets. “Accounting is catching up with our true business intent,”

だそうで、これで、よりビジネスの実態に会計が近づいてきたという主張ですが、何ともしらけてしまいます。

やはり、会計の制度そのものが、会社の意志決定プロセスをときんは、良くない方向へと、動かし、結果として、利益を動かしてしまうのです。

多くの金融機関が、時価会計を利用して、実態以上に、利益を多くみせかけ、そして、その反動で、多くの金融機関がより痛んでしまっているとしたならば、やはりこれを次の世代へ教訓として残しておかなければいけないと思います。

そもそも、ビジネスの実態とは何なのか。それは、企業それぞれが、ある種の信念のものとにもってなければいけないのでしょう。その実態がまず先にありきでなければいけなく、その次に、それをどう会計的に表現すべきなのかを議論すべきだと思います。ここで難しいのは、企業の実態そのものは、企業が「自律的に」認識する必要があるということです。そうでないかぎり、会計制度側から、実態を作り上げる発想に靡いてしまう可能性を否定できません。

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