2009年1月23日金曜日

ロジカルシンキングより大切なこと その4

コンサルティングについてのトピックをあまり書いてないと思っていたら、以前に「ロジカルシンキングより大切なこと」と題して3つのポイントを揚げたのですが、その3つめをアップしていないではないですか。この3つめこそが、筋のいい仮説を紡ぎ出し、早く家に帰る一番のコツなのです!

そもそも3つのポイントとは何だったかというと:

1.バランスのいい情報収集プランを練るのがひとつ。
2.そして、素直に考えること。
3.もうひとつは、過去の経験・ナレッジを活用する。


1.は、同じ情報を与えられて、他人より深いインサイトを出すのは難しいもの。であるならば、他人とは違う(より適切な)情報源を集めてくることで、他人とは違ったインサイトを出そうというもの。他人とは違うインサイトを出すために実に有効な方法です。MBAのケース・スタディでは、みな同じケースに基づいて考えなければいけないので、この差別化ポイントを使えないのがツライ。2.は、素直に問題をとらえること-じつは疲れているときに考えた方が、無駄な雑念が入らなくて、むしろスーッと素直に考えられることの方が多いというものでした。そう、複雑に考えない、シンプルに素直に考えるのが大事。

さて、3.について。よくゼロベース思考という言葉が流行っています。白紙から考えるのがいいのだ!という思い込みのもと、ウンウンとウナっている人がいます。じつは、ゼロベース思考というのは、私の理解では、上の2.に近くて、起きている問題に対して真っ正面から向き合うその姿勢のことを指していて、決して、過去のノウハウや知見、ナレッジの活用を否定しているものではないと思うのです。

むしろ、ある程度の過去の経験・ナレッジや知見がなければ、決していい仮説やアイディアを考えることができないというのが、私の実体験です。私がコンサルティング会社一年目のときは、マネージャーに「仮説は?」と聞かれても、なかなか答えることができなかったのですが、半年ほど猛烈に特訓を受けると、急激にナレッジが自分の中で増えて、そのナレッジを上手に活用しながら、仮説を組み立てやすくなったのを思い出します。

これはどういうことなのか?

何年か前に、社内のトレーニング資料を作成するために、コンサルタントが実際どのような思考をたどるのか、各種の書籍をリサーチしたことがありました。いわゆる、ツールを説明しているものではなく、実体験に基づくもストーリーが書かれている本をいくつか、紐解いてみたのです。

“優秀なコンサルタントはみなパターン認識化した戦略の引き出しをたくさん持っていることだった。それ以来、さまざまな戦略を定石としてパターン化し、身につけるよう心がけてきた。そのなかで得たコツは、コンセプトワードを記憶の引き出しとして用いることだ。人間の頭はすべての事象をくわしく記憶することはできないので、戦略のエッセンスをコンセプトワードとして覚える。”

”実際には、コンセプトワードごとに、具体的な事例が引き出しの奥に記憶されているのだが、記憶をたどったり、パターン化された定石を組み合わせて思考していく際には、コンセプトワードレベルで考える。このほうが、記憶が容易だったり、思考のスピードアップが可能だったりするからだ。事例そのものは、必要なときにだけ頭の中のメモリーから引っ張り出してくればよい”
(戦略「脳」を鍛える、御立尚資氏)


じつは、全然ゼロベースでは考えていないのです。ある種の事象をコンセプトワード化し、そのナレッジを適材適所で活用しているというのが見て取れます。

「コンセプトワード化」するというのは、ある現象の背後に隠れているメカニズムを見抜き、すなわち現象の本質を抽出し、一段と抽象度の高いレベルにその現象を知恵として昇華させる作業を指していると私は理解しています。具体論よりも、少し抽象度の高い知恵の方が、その知恵の適用範囲が格段に広がる、という原理を最大限に活用しています。

理系的な表現をすれば、「釘を水に浸したら錆びる」という現象を覚えておくより、一段と抽象化し、「鉄と水を接触させると錆びが発生する」の方が、はるかに応用範囲が広いという原理です。

ただ単にニュースを読み流すか、逐一この作業を行い、知恵のストックを拡充している人では、時間が経過した分だけ、思考のクオリティにどんどん差がついてきてしまうのです-ああ、恐ろしい! この抽象化のやり方についてはいくつかコツがあるのですが、それについて書くと長くなるのでまたいづれ。

もうひとつ。

“収集したイメージに仮のラベルを貼るために、これらのイメージ体験から何らかの示唆を導き出すことにした。示唆の導出は、次に応用できる原理を抽出するという一般化を目的に実行したものであり、この示唆ラベルをつけて頭の中にイメージを格納する。しかし、実際にイメージを頭の中のアーカイブから引き出して使うときには、必ずしも最初に貼ったラベルにこだわることなく、切り口を無限に考えるようにした”

“こうしたイメージ・アーカイブが充実するにつれて、頭がはっきりしている状態のときは、言語を介することなく、イメージ自体が勝手に爆発的スピードで合従連衡して、答えを出してくれるようになった。創造を感じる瞬間である”
(30歳からの成長戦略 「ほんとうの仕事術」を学ぼう 山本 真司氏)

これもここでは現象の抽象化のことを、イメージ・アーカイブと表現されていますが、本質的には同じことを記述していると思います。抽象化された知恵を、イメージの形で保持しておいた方がよりパワフルとの指摘です。

じつは、一見目新しいように見える問題の中を素直かつ、冷徹な目でみると、じつは過去でどこかで起きた問題と同じ構造であることはめずらしくなく、そこを見抜き、えぐり出してあげることがキモで、そこさえできれば、過去の経験やナレッジを活用することができるというわけです。過去の経験やナレッジを活用することのメリットは、問題解決のスピードを速めるだけではなく、「適用済み」「実証済み」であるので、提言する方としても、とても安心です。言い換えれば、その解決策を実行すれば、間違いなく成果が出ます。

そんな過去の知見やナレッジばかり活用していては、全然目新しい提案ができないではないかという指摘もあるかもしれませんが、一概にはそういう風にいうことはできません。というのも、たとえば全く畑の違う業界での知見を横展開した場合には、やはりその当事者にとっては目新しい提案になるからです。

というわけで、ゼロベースという言葉を誤解し、勝手に奇想天外な解決策を産み出そうと苦しむより、過去の経験やナレッジをさっさと使い、素早く問題解決するのがいいと思います。おそらく優秀なビジネスパーソンはみなそうしているのではないかと、私は思っている今日この頃です。

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