2009年1月28日水曜日

マーケティングの授業は「心理学的」

今期、来期と2学期にまたがって、マーケティングの授業があるのですが、いわゆる「正統的な」マーケティングアプローチとは違って、「心理学的な」アプローチからマーケティングを捉えようとしている気配が感じられます。

実際、消費財メーカーでプロダクトマネジャーをやっていたクラスメイトは「俺がやってきたマーケティングとなんか違うんだ!」と言っていましたが、個人的には、味わい深くてなかなかいい味を出していて好きです。マーケティング絡みは、実務でもかなり取り扱っていたので、そうした過去の経験を振り返りつつ、新たな視点で物事を考察していくのはとても面白い。

それも、そのはず。このマーケティングの先生は、修士では社会心理学を専攻し、ドクターコースでも、マーケティング専攻といいつつやはり人間の判断といった心理に根ざした領域を研究していて、今でもこの領域を専攻していることから、色濃く心理学的なアプローチがこのマーケティングの授業に反映されていると思います。組織行動学の授業に近い。

先生のスタイルも、いかにもマーケティングをやっていました!という華やかなタイプでは決してなく、木訥とした感じで、若干暗い面持ちでしゃべり、マーケティングという科目のイメージとのコントラストも手伝って、なかなか良い味を出しているように感じます。また、題材も、育毛剤や不動産といった複雑な顧客心理/感情が絡む商品を取り上げたりしているのも特徴的です。

また毎週、授業の前日の夜に締め切りがあるオンライン調査で、クラスメイトの意識調査があります。これが、そのまま、われわれがどのような認知を行うのかといった、授業の素材に生かされていくのも、教育方法としてアリだと思います。一般の人がこう思っているというよりも、身近なクラスメイトがこう思っているという調査結果の方が、関心度は高いですから。

いくつか覚えておきたいメッセージをメモしてみると:

「認知」の重要性

ネスレのインスタントコーヒーと、ひいた豆から作ったコーヒーを、ブラインドテストすると、けっこうの割合で、インスタントコーヒーの方がおいしいと答えるのにも関わらず、インスタントコーヒーと聞いた瞬間、人間はとたんにネガティブなイメージをもつというもの。ということなので、インスタントコーヒーを知りつつ、試飲テストをすると、いい結果は出ない。ブラインドテストの欠点ということなのだが、ここでの示唆はそれ以上にあるのではないでしょうか。

クラスで行った調査で、ある主婦のショッピングリストをみて、その主婦がどんな人かを当てるという調査がありました。ショッピングリストは二つあり、ほとんど同じ。どちらも、ハンバーガー、ニンジン、ベーキングパウダー、などなどが記載されているものの、1カ所だけ違うものがある。それは、ひとつは、インスタントコーヒーで、もうひとつは、コーヒー豆というたったひとつの違い。

結果はというと、コーヒー豆が入っているショッピングリストをみたクラスメイトのその人に対するイメージは、「とてもいい主婦、健康に気遣っていて毎日家庭料理を造っている、旦那のことを気遣っている」など理想の主婦像を描く。一方で、インスタントコーヒーが入っている方の印象はというと、「だめな主婦、健康に気遣おうとしているが結局できていないだらしのない主婦、手抜き、独身女性、子供なし、ペットで寂しさを紛らわせている」などといった、都会生活に堕落しきったダメ人間像を思い浮かべてしまう。

たったひとつの違いがこれだけの認知の違いを産むわけで、「認知」の重要性というか、パワーを改めて感じせずには居られないファクトだと思います。これだけ「認知」が重要だとするとしたら、われわれは、その重要性に見合うだけの労力を、認知設計とその消費者への形成という活動を十分にやっているかどうか、といった論点も浮上してくることになるのです。

もうひとつ。

セグメンテーションは自分自身の鏡

セグメンテーションは、あなたを映し出しているのですよ、というメッセージ。あなたが世界をみたいように、あなたは顧客をセグメンテーションをしてしまうという指摘。これはなかなか示唆深い指摘だと思いました。

私たちは、セグメンテーションというとき、自分ではなく、顧客をセグメンテーションしている、と思っている、というより、思い込んでいる。きわめて客観的にセグメンテーションをしていると信じているというか、疑いもしていない。

しかし、そこには、そういう風に世の中をみたいというバイアスが入り込むことになる。ケースで取り上げられていたのは、ある法人向け企業が、世のトレンドが低価格化・コモディティ化に向かっている中で、高付加価値サービスを提供しているが、どうしたものかというもの。ここで、低価格が欲しいセグメントと、高付加価値が欲しいセグメントという二つの顧客セグメントに分けるのですが、これはあくまで、あなたがそういう風に世の中をみたいというものであって、実際は、もう世の中には高付加価値セグメントなど存在しなくなっていることに目を向けなくてはいけないということ。

セグメンテーションはあなたの世界の見方である。それはいいことでもあるのですが、あわせて、そこには主観、バイアス、思い込みが入り込む余地があるということ。セグメンテ-ションというのは、きわめて機械的、作業的、客観的な作業に思うことがもしかしたら、適切なセグメンテーションからわれわれから遠ざけているのかも知れないというひとつの警笛でした。セグメンテーションは、あなたの頭の中にある!

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